2007年 10月 06日

株主総会の特別決議は万能か?

(昨日の続き)
【CFOならこう読む】
昨日の私の問題提起は、「株主総会の特別決議は万能か?」というものでした。昨夜のビジネススクールの講義でも同じ問題提起をさせてもらいました。

言うまでもなく法的には、株主総会の特別決議は相当の力が付与されています。それは株主が主権を持ち民主主義的に経営がなされることが前提となっているからです。ところが日本企業の主権は株主にありません。それでは主権者は誰でしょうか?

実は日本企業における真の主権者は組織の構成員たる従業員です。意外にも経営者はそれほどの力を有していません。従業員がかつぐ神輿に乗っているだけです。稟議書をぐるぐる回す文化は経営者のリーダーシップなどというものを全く期待しない日本企業の体質を如実に表しています。

株主が右だと言っても、主権者である従業員はなかなかその通り動きません。例えば次のニュースは、従業員の力の強さを背景としています。
ユーシン、副社長も辞任・ナイルスとの統合不透明に
RHJインターナショナル(RHJI、旧リップルウッド)傘下の自動車用電装部品メーカー、ユーシンは3日、竹網健祐副社長(65)が辞任したと発表した。理由は竹網氏の一身上の都合という。竹辺圭祐前社長(60)も9月25日付で社長を辞任している。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1D030BT%2003102007&g=S1&d=20071004

CFSとアインファーマシーズが経営統合発表・イオンは反対
ドラッグストア大手のCFSコーポレーションと調剤薬局最大手のアインファーマシーズは5日、2008年4月に持ち株会社を設立して経営統合すると発表した。両社の売上高を単純合算すると約2400億円で、ドラッグストア業界でマツモトキヨシに次ぐ2位になる。一方、CFSの筆頭株主であるイオンは5日、両社の経営統合に反対を表明。CFSの企業価値向上策を月内にも既存株主に提案するとしており、統合に影響を与える可能性がある。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1D0507U%2005102007&g=S1&d=20071005

日本では、構成員が組織の主権者であるのは、企業だけに限られません。
例えば年金着服問題で告発を拒む自治体
社保庁に告発指示 年金着服で厚労相
自治体職員による年金保険料着服問題で、舛添要一厚生労働相は4日、自治体が刑事告発をしない場合、社会保険庁が代わって告発するよう坂野泰治長官に指示した。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/20071006/20071006_006.shtml

一人の親方をクビにして、組織としての責任をとらない日本相撲協会
時津風親方を解雇、角界から永久追放・日本相撲協会
日本相撲協会は5日午後、時津風部屋の序ノ口力士、時太山(ときたいざん)=(当時17)、本名斉藤俊さん=がけいこ後に死亡した問題で、師匠の時津風親方(元小結双津竜、本名山本順一さん)の処分を決める緊急理事会を東京・両国国技館で開き、満場一致で時津風親方を解雇した。
http://sports.nikkei.co.jp/news.cfm?i=2007100504277n0&t=sumo

組織がその存在意義や真の目的を忘れ、組織と組織の構成員を守ることにしか関心がないのです。

これは一体どういうことなのでしょう?

最近読んだ「歴史の終わり」(フランシス・フクヤマ著 三笠書房)という“リベラルな民主主義”について哲学的にアプローチした本の中に次のようなことが書かれています。
「たとえば、日本の文化は(東アジアの他の多くの国々と同様)個人よりも集団志向が強い。この集団は、家族というもっとも身近な最小単位からはじまり、躾や教育によって確立されるさまざまな師弟関係を通じて広がり、勤務先の会社、そしてさらには日本文化にとっていかなる意味においても最大の集団、国家にまでいたる。ある個人のアイデンティティは、まったくといっていいほど集団のアイデンティティに押し殺されている。彼は自分の目先の利益のために働くのではなく、自分が所属している集団や、あるいはもっと大きな集団の福利のために働くのだ。」

「こういう集団への一体化こそが、日本の大企業の一定部分にも採用され効果を発揮している半永久的な終身雇用のような慣行を生み出しているのだ。西欧の自由主義経済の教訓からすれば、終身雇用は被雇用者に安心感を与えすぎることによって経済効率を損ねてしまうはずである。」

「ところが日本文化のなかに育まれた集団意識の現状からいえば、会社が社員に示す家族主義的な温情に報いるため、社員の側は涙ぐましい努力を払い、自分自身の利益はもとより、いっそう大きな組織の栄光と名声のためにも働くことになる。」

株主は日本企業の集団の外側にいるのです。ですから株式持合いその他ありとあらゆる手段を使って株主を無力化しているのです。

そういう構造の中で、原理原則どおり株主主権を振り回しても全く意味がないのです。株主総会を主権者たる従業員が支配しているなら、その特別決議により何かを決めても企業価値創造につながる保証は全くありません。市場型資本主義へ向かうこれからの日本にとってこれは望ましい姿ではありません。

それではどうすれば良いのでしょうか?

私は“法的規制の強化”しかないと思っています。たとえば株式持合いは、一般投資家が育ちROEなりの指標で企業を厳しく見るようになればいずれ解消します。しかしそれにはまだまだ時間がかかると思います。まずは“強制的に”一般投資家・機関投資家といった純粋に投資を目的とした株主の手に主権を返さなければなりません。

そのためには例えば企業が保有する20%以下の持分には議決権を与えないといった強い規制が必要であるように思います。

今日は長くなってしまいましたが、もう一言だけつけくわえます。“株主”といったとき民主党が言うような特定の金持ちをイメージすべきではありません。年金を株式で運用する個人又は機関投資家を想起すべきです。株主価値重視とは、公共の福祉を重視することに他ならないのです。

ですが、日本はこれとは程遠い。
それが問題なのです。

【リンク】

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PS:
OZAWA様コメントを残して頂きありがとうございます。
また遊びにきてください。

by yasukiyoshi | 2007-10-06 22:41 | コーポレートガバナンス


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