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2007年 10月 22日

キリンの協和発酵買収:1株当たり利益(EPS)の希薄化は問題か?

キリン、協和発酵買収で22日合意・来週から友好的TOB
キリンホールディングスは東証一部上場の医薬品大手、協和発酵を買収することで同社と22日に基本合意する。友好的TOB(株式公開買い付け)を来週実施し、協和発酵の株式を取得。さらにキリンの医薬品子会社と合併させ、協和発酵を連結子会社にする。少子高齢化や医療費抑制などで経営環境が急激に変化する中、食品・医薬品業界でもM&A(合併・買収)戦略が活発になりそうだ。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20071022AT2F2100C21102007.html

【CFOならこう読む】
今日の日経金融新聞が1面で、次のように協和発酵のEPSの希薄化の懸念について論じています。
現時点ではキリンHDが友好的TOBで協和発酵株を取得、その後傘下の医薬品子会社キリンファーマと合併させる案が検討されているようだ。協和発酵は上場を維持、キリンHDは合併新会社の50%超の株式を持つ方針だ。ただこの方式が一部に不安を抱かせている。関係者の脳裏をよぎるのが2002年、中外製薬がスイス製薬大手ロッシュの傘下に入ったこと。
ロッシュは中外薬にTOBをかけたが取得したのは約10%。その後ロッシュに対する第三者割当増資、ロッシュ日本法人と中外薬の合併で持株比率を50%超に高めた。この過程の新株発行で発行済株式数が急増、大幅な一株利益の希薄化が発生し、急騰していた中外薬株は発表前の水準まで逆戻りした。
今回キリンHDが仮にTOBプレミアムを高く設定しても、その後の協和発酵とキリンファーマの合併比率次第で同じことが起これば…。19日の市場で協和発酵株がストップ高の1,402で値を付けながらその後、一時1,359円まで下落したのは「第二の中外になるかもという投資家の不安」(大手投信)を物語る。

私はこの指摘は的外れであると思います。

まず第一に、M&Aおいて希薄化が生じるかどうかは買い手の立場で論じられるべきです。M&Aの通貨として自社株を使用する合併や株式交換の場合にEPSの希薄化が生じることがあります。しかし今回のキリン・協和発酵のケースでは、買い手であるキリンは、キャッシュと子会社であるキリンファーマ株式を対価として協和発酵株を取得するので、キリンに新株発行はなく、キリンHDにEPSの希薄化は生じません。

第二に、協和発酵についてEPSの希薄化が生じるリスクですが、これはTOBで思った以上に株式が取得できず、協和発酵がキリンに対して第三者割当増資がある場合と協和発酵がキリンファーマを吸収合併するときの2回の局面である可能性があります。しかし前者はTOB価格の適正性の問題で、価格が協和発酵株主にとって魅力的であるなら、目標とする株式数を取得できるでしょうし、それができないなら協和発酵株主はキリンによる経営権取得を拒否したことになるので、無理に第三者割当増資を行うなら不公正発行に該当する可能性があります。つまりEPSの希薄化うんぬん以前の問題として法的に問題が生じる可能性出てくるのです。

後者の場面ではキリンファーマの株式価値と等価な協和発行株式が新規で発行されるなら株価に与える影響はないはずです。つまりおかしな合併比率で合併しない限り、EPSの希薄化が問題になることはないのです。仮に協和発酵に不利な合併比率で合併することになったなら(この場合希薄化が生じます)、その合併比率について有利発行の問題が生じるので、そのような比率で合併を行うことは極めて困難であると言えます。

以上の理由から、キリン・協和発酵のケースで希薄化について現時点であれこれ言うのは間違っていると思うのです。ところでより根源的な問題としてM&AによりEPSが希薄化するのは悪いことなのでしょうか?

M&Aといえども買い手にとってみれば新規投資の一形態にすぎません。投資の意思決定は、その投資が付加価値を生むかどうかにより判断されます。この新たに創造される付加価値と同じ価値の買い手株式が新たに発行されるならそのM&Aは株価には中立です。

したがってこの意思決定メカニズムには来年や再来年のEPSがどうなるかは全く無関連なのです。EPSの希薄化が何故嫌われるかというと、EPS×PER=株価の等式があまりに浸透していて、しかもPERが定数であるかのような誤解があるので、EPS↓⇒株価↓になってしまうという固定観念が一般にあるからです。しかし、今説明したように創造される付加価値と新規の発行株式数との関係で株式価値が先に決定するので、PERは逆算で後から決まるだけなのです。

したがってEPSの希薄化自体をM&Aの意思決定の場面で問題とするのはナンセンスであるのです。
問題とすべきは株価の希薄化が生じるかどうかです。

by yasukiyoshi | 2007-10-22 08:55 | M&A


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