吉永康樹の CFOのための読みほぐしニュース

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2007年 12月 05日

会計方針と株価

減価償却法 見直し広がる -設備状況の変化に対応-
企業が相次ぎ設備など固定資産の減価償却方法を変更し始めた。4月の減価償却制度の改正を機に設備の利用実態の見直しを進め、初期に償却負担が重くなる分、早めに償却が進む定率法と、償却速度は遅くなるが利益への影響が安定的な定額法のうち、現状に適した方法へと切り替えている。ただ、償却を加速し税負担を抑える新制度の利点を活用しにくいという課題も浮かび上がってきた。
(日本経済新聞2007年12月5日17面)

【CFOならこう読む】
記事によると今年に入って減価償却方法を変更した主な企業は次の通りです。

e0120653_914710.jpg減価償却方法は、収益との対応や経営者の保守的な態度を反映した形で企業が決めることができます。そして一度決めた方法はみだりに変更することは許されません。変更する場合、会計上「正当な理由」が必要です。

例えば富士通は、「主力のコンピュータシステム事業で長期契約中心の運用受託が増えているほか、需要動向が激しいメモリー事業撤退で収益が安定した。償却期間を通じて一定の利益を得られるなら、償却という費用も期間を通じて均等に発生すると見た方が理にかなう。したがって定率法から定額法に変更することでより適切にビジネス実態を表すことができる」を「正当な理由」としています。

ところで、日本では昔から会計方針の変更が“益出し”の手段として使われていることです(上の企業はそうではないと思いますが…)。在庫の評価におけるFIFOとLIFO、工事進行基準か完成基準かといった会計方針を会計上の利益を捻出するために変更する、という本来あっては行けないことが数多く行われてきたのです。政府主導で行われたこともあります。

そうまでして、会計上の利益を捻出することにいかなる意味があるのか、特に株価にどのような影響を与えるのか、が問題になります。コーポレートファイナンスでは、市場は効率的であるということが仮定されます。これを効率的市場仮説と言います。効率性の程度は3つのレベルに分けられます。

市場が過去の株価を完全に織り込んでいる場合をウィーク・フォームの効率性、過去の株価だけでなく全ての公開情報を反映しているならセミストロング・フォームの市場の効率性、株式に関係する全ての情報を反映しているならストロング・フォームの市場の効率性を満たすと言われます。

米国の数多くの実証分析がセミストロング・フォームの市場の効率性は満足することを証明しています。つまり会計上の利益を会計方針の変更によっていかに捻出しても市場が公開情報を正しく解釈しているなら株価には全く影響しないことになります。これを証明する実証分析もたくさんあります。

ところが会計方針の変更が株価に影響を与える場合もあるのです。Stephen A. Ross等の「コーポレートファイナンスの原理」(金融財政事情研究会)に次のような記述があります。
「Biddle and Lindahl」はLIFOへの在庫の原価計算の変更が、株価の上昇を伴うことを発見した。インフレ傾向の環境では、FIFOによる在庫の原価計算に比べて、LIFOの在庫原価計算は税金を減少させる(売上原価が現在の高い時価を反映する…吉永注釈)ので、これは予想されることである。彼らは、LIFOを用いることによる税金の減少額が大きいほど、株価の上昇が大きいことを発見した。」
減価償却方法の場合、定率法が定額法に比し税金を減少させる効果があるので、株価という観点からは定率法が望ましいと言えます。一方投資家により有益な会計情報を示すという観点からは、富士通のように定額法が望ましい場合もあり得ます。

日本では「確定決算主義」と言って会計上費用計上していないと税務上損金計上が認められない方式が採用されているので、このような会計上のニーズと税務上のニーズの違いを使い分けることができないのです。

「税法」が、来るべき市場型資本主義を阻害することがないように、コーポレートファイナンスの点から改正すべき点は山ほどあると、私は思います。
ところで、現在の日本の市場がセミストロング・フォームのレベルで市場が効率的であるかどうかについては、私は甚だ疑問であると思っています。

【リンク】
コーポレートファイナンスの原理 第7版
Stephen A.Ross 大野 薫

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by yasukiyoshi | 2007-12-05 08:54 | 会計


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