2008年 01月 11日

M&A会計欧米統一基準の概要

M&A会計、欧米が統一・来年7月、子会社株売却で新基準
【ロンドン=田村篤士】欧米の会計基準を作る専門家組織は10日、企業のM&A(合併・買収)を巡る欧米の会計基準を2009年7月に統一することを決めた。企業買収の実態を比較するモノサシが国際的に統一され、国境を超えた買収やグループ再編が加速する。日本の会計基準も修正を迫られるのは確実。連結決算で子会社株の一部売却を利益として認めない方針を打ち出しており、子会社上場など日本企業の財務戦略に影響しそうだ。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2M10015%2010012008&g=MH&d=20080110

【CFOならこう読む】
米国の連結財務諸表の基本的な考え方は、いわゆる親会社説によるものであったのですが、国際基準は経済的単一体説によっており、米国は差異解消に向けて大幅な歩み寄りを決断したものと言えます。
この親会社説と経済的単一体説はそれぞれ何を意味しているかというのがなかなかに難しいのです。今日の日経新聞17面によると、親会社説とは連結決算書は親会社株主のために作成されるという考え方であり、親会社だけでなく親会社以外の少数株主のために作成されるという考え方を経済的単一体説と言うと説明していまが、何だかよくわからないと感じる人が多いと思います。

両者の違いはこういうことです。

A社が資産100円のB社を買収するとします。A社が取得する持分は60%、これを90円で取得したとします。純粋に親会社説を推し進めると取得した資産は100円の60%の60円となります。ところがA社のコントロールはB社の全ての資産・負債に渡ると考えられるので、連結されるB社資産は100円として会計処理するのが適当であるというのが米国や日本の現在の基準です。そうすると100円の資産のうち60円部分だけが親会社に帰属するので残り40円をどう処理するか問題になりますが、これは親会社以外の少数株主が所有する部分ということで、少数株主持分として処理されます。この処理そのものは米国基準と国際基準(そして日本基準も)同じです(国際基準では少数株主持分ではなく非支配持分という勘定科目が使われます)。

しかし基本的には親会社説によっている米国基準では少数株主持分が「資本の部」に表示されないのに対し、国際基準では経済的単一体説によっているので、非支配持分(=少数株主持分)が「資本の部」に計上されます。国際基準の考え方は、非支配持分は負債ではないという会計理論に沿ったものであるのに対し、米国基準は親会社の持分ではないから「資本の部」に計上すべきでないというものでそれぞれ一長一短あります。

例えば自己資本比率は、負債が全くない会社を買収したとしても、米国基準によるとその比率は、少数株主持分の有る無しによって歪むことになりますが、国際基準によるとこの弊害が緩和されます。一方親会社の株主価値を評価する場合、連結グループの企業価値ー連結グループの負債価値で計算されますが、少数株主持分は負債価値に含めるのが普通です。つまり米国基準によると「資本の部」=株主価値になるのでわかりやすいし、またPBRを計算する場合にも単純に株価を一株当り株主資本で控除すれば良いので、計算が容易であるという利点があります。

またROEを計算する場合にも当期利益は少数株主に帰属する部分を除いて計算されるので、これと整合させるためには資本に少数株主持分を含めるべきではないのですが、米国基準によるとこの考え方とBSの構造に矛盾がないと言えます。ただし国際基準でも「資本の部」が親会社持分と少数株主持分の2段階で表示されるので、米国基準的なROEの計算は容易にできます。要するに財務諸表の読者がどちらがしっくりくるかということなのだと思います。そういう意味でのれんの取扱いに留意が必要です。経済的単一体説によると少数株主持分からものれんが生じると考えられるのです。

さきほどの数値例によると、親会社説によった場合ののれんは、90円-100円×60%=30円となりますが、経済的単一体説によると90円÷0.6(B社の公正価値)-100円=50円となります。そして少数株主持分(非支配持分)は60円(=150円×40%)となるのです。今回の統一基準の公開草案が2005年6月に公表されたときには後者の処理を要求していましたが、これについては反対が多く前者の処理で良いということになりました。後者では財務諸表の読者がしっくりしないということでしょう。

統一基準の日本への影響を考えた場合、少数株主持分はすでに純資産で表示することとされているので、ここまでお話しした点については国際基準との大きな不整合はありません。一番の不整合は新聞記事にもあるように子会社株式の売却損益の処理でしょう。基本的に経済的単一体説の立場に立つ統一基準では、子会社株式の売却は株主間の株式移動であると見なされ、売却損益はPLに計上されません。また株式の追加取得の際に従来のれんが生じる場合がありましたが、統一基準では自己創設のれんを認めないという見方を徹底し、のれんが計上されないことになるようです。この部分は公開草案のまま変更がないとすると、差額は資本剰余金により処理されます。
追記
M&Aに関する米国基準は、IASBとの共同プロジェクトの成果として昨年12月に改訂されています。説明の都合上、上で記載した米国基準とは、改訂前の米国基準を指していますのでご注意下さい。なお上でお話したように、この共同プロジェクトにより、M&Aに関し従来あった欧米間の差異はほとんど解消されました。ただし、のれんの測定に関しては、米国は全部のれんを原則としたのに対し、IFRSは全部のれんも選択可能というような差異が存在しています。米国サイドは『経済的単一体説→全部のれん』という点で妥協できなかったのかもしれません。

【リンク】
BUSINESS COMBINATIONS PHASE II
http://www.iasb.org/NR/rdonlyres/FB09D3C0-D7CA-478C-881C-704495F8A6CC/0/Business_Combinations_JN2008.pdf


by yasukiyoshi | 2008-01-11 12:56 | M&A


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