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2008年 09月 09日

スティール、松風に企業価値向上策

ROE8%達成 スティール提言 松風に企業価値向上策
米投資ファンドのスティール・パートナーズは8日、筆頭株主になっている歯科材料大手の松風に対し企業価値向上に向けた提言を行ったと発表した。自己資本利益率(ROE)8%以上の達成を目標とした新しい経営計画の策定や、内部留保の使途説明などを要求資本効率の改善に努める社外取締役の導入なども求めた。
(日本経済新聞 2008年9月9日 14面)
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昨日、スティールが投資先との対話を重視する方向に転換しつつあるというような話題をとりあげましたが、今日の新聞に松風企業価値向上策について提言した旨の報道がありましたので、今日はその内容を紹介します。

提言の具体的内容は次の通りです。
「スティール・パートナーズは、松風が本業の歯科医療事業において着実に増益を実現されていることを喜ばしく思っています。しかし、同社経営陣が内部留保の使途や合理性について株主に対してより明確に説明すべきであると考えています。
スティール・パートナーズは、松風の留保利益は、本業の成長投資にこそ使うべきものであり、経営陣の本業ではないところの専門知識が必要な他社の株式やその他の有価証券投資につかうべきものではないと述べております。

合理的な範囲を超える留保分について、スティール・パートナーズは、自社株買いあるいは増配を通じて従業員持ち株会などを含む株主に還元すべきだと考えています。
スティール・パートナーズは松風に対して以下の提言を行いました。

. 株主資本利益率(以下「ROE」)を経営指標の一つとして導入し、より資本効率を重視した経営を行うためにROE8%以上の達成を目標に含んだ「新」中期経営計画を策定する。
. 内部留保の使途や合理性を説明するために「新」中期経営計画にて設備投資、減価償却費、研究開発費等の計画を開示する。
. 自社株買いもしくは特別配当を通じてROE及び一株当たりの当期純利益を改善する。
. 配当性向を恒常的に引き上げる。
. 株主と利害関係を共有するため、取締役にストックオプション制度を導入する。
. 資本効率の改善とステークホルダー間の利害の最適バランスを維持することに注力する社外取締役候補者を少なくとも3名選定する。
スティール・パートナーズは、これらの提案を実施することにより松風の一株当たりの当期利益が増加し、企業年金連合会が取締役再任のためのROE最低基準としている8%の達成を助けると考えています。松風は企業年金連合会の再任基準8%を下回る状態が続いていることを指摘しています。」
特に非事業用資産への投資が過大であると、スティールは次のような説明を行っています。
「■松風は2008年6月期末現在、本業への貢献が薄いと考えられる非事業用資産を87億円保有。これは総資産額の約39%、時価総額(2008年8月28日時点)比61%に相当
 >非事業用現預金は42億円、同時価総額比29%
 >有価証券は7億円、同時価総額比5%
 >投資有価証券は39億円、同時価総額比27%(ナカニシ、大日本スクリーン、ワタベウェディングの株式など)
■合理的な範囲以上の内部留保は、株主の資本を不必要に拘束し、評価減などの無用なリスクに晒す(2008年3月期に有価証券の価値が約10億円毀損)。同業他社や本業とのシナジーが薄いと考えられる他社株への投資などの資産運用は、会社の本業でもなく、「歯科医療の発展」という経営理念にも資さないとSPJSFは考える。
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■松風は本業から上がるキャッシュフローにより、十分将来の設備投資を賄える
>松風の過去5年間の営業活動によるキャッシュフロー(下図青の棒グラフ)をみると概ね設備投資額(下図赤)を上回っている
>過去5年間の営業活動によるキャッシュフローの平均値は設備投資の同平均値の約2.4倍、年間総配当額控除後でも1.8倍以上の水準
■87億円という非事業用資産の額は平均設備投資額の約20年分もの規模87億円という現在の非事業用資産の額は、平均設備投資額や本業から上がるキャッシュフローを考慮すると明らかに過大」
なお、内部留保の使途・合理性について説明を求めるのは、他の機関投資家も同様であるとして、企業年金連合会の議決権行使基準等を紹介しています。
「■企業年金連合会
>「既に厚い自己資本を有していながら適切な事業計画もなく、内部留保を積み増している場合等には、(剰余金の分配等について)肯定的な判断はできない。(()内はSPJSFが挿入)」(株主議決権行使基準 III.具体的行使基準 3.資本政策等に関する議案 (2) 剰余金の分配等 c )
>「株主に対する利益配分は、中長期的観点から行われるべきであるが、株主等に対し納得のいく説明もなく、必要以上に利益を留保する企業に対しては、連合会は適切な株主還元を求める。」(連合会 コーポレート・ガバナンス原則 II.コーポレート・ガバナンス原則具体的行使基準 5.事業計画等 ④)

■アジアン・コーポレート・ガバナンス・アソシエーションACGA(米国、英国、アジアの年金運用機関を構成員とする団体)
>「経営者は…株主価値の長期的最大化に努めねばならない。」「経営者はこうした自己資金の活用に何の計画性も持っていない。増配または自社株の買い戻し、もしくはその両方によって株主に還元すべきである。」「(提言)株価が簿価以下に下がったときには、自社株の買い戻しを実施する。」「(提言)ROE/ROAの目標値を明示(する)(()内はSPJSFが挿入) 」(ACGA日本のコーポレート・ガバナンス白書)

■インスティシューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(以下「ISS」、世界的に著名な議決権行使助言会社)
>「過去十分な利益を上げているにも関わらず、その内部留保について説得力のある理由を提示しない会社が、適切な説明なく不十分な配当を提案した場合には、ISSは反対票を投じるよう推奨する(SPJSF訳)」“ISS will recommend votes against the income allocation proposal where a consistently profitable company with no compelling reason to retain cash proposes an unusually low dividend without an adequate explanation”) (Japanese Proxy Season 2007-SUBSTANTIVE ISSUES FOR 2007-Allocation of Income and Dividends)」
提言内容は至極まっとうで、松風経営陣はこの提言に対し、きちんと対応することが求められると、私は思います。

【リンク】
2008年9月8日「スティール・パートナーズ・ジャパン、松風に企業価値向上のため提言 内部留保の使途についてより明確な説明を要望」スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、エル・ピー
http://www.spjsf.jp/pdf/080905-Shofu_j.pdf

2008年8月28日「企業価値向上のための提言」スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、エル・ピー
http://www.spjsf.jp/pdf/080905-Shofu_PPT_j.pdf


by yasukiyoshi | 2008-09-09 08:39 | コーポレートガバナンス


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