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カテゴリ:買収防衛策( 31 )


2008年 12月 08日

第三者割当増資 総会決議義務化へ

第三者増資、総会決議を義務化 法務省、会社法改正で検討
法務省は、買収防衛などに活用される第三者割当増資により利益が縮小しかねない既存の少数株主の保護に向け、会社法改正の検討に入った。現行法では事実上、取締役会の判断で新株を発行できるが、株主総会の決議を義務付ける方向。来年秋にも法制審議会(法相の諮問機関)で始める会社法の次期改正論議で論点の1つとし、2011年の通常国会への改正案提出をめざす。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3S0600R%2006122008&g=MH&d=20081207
【CFOならこう読む】
「取締役会の決定だけでできる現行の第三者割当増資は「経営者が株主を選べる」という特殊な制度だ。濫用されるケースが目立っており、何らかの弊害防止策が必要になる。
現在の会社法でも、一応の濫用への対応策はある。著しく低い価格なら「有利発行」として例外的に株主総会決議を求め、主に保身目的の増資であれば「不公正発行」として、ライブドア・ニッポン放送事件などのように裁判所で差し止められる。ただ、司法判断を得るには莫大な費用がかかり、少数株主は泣き寝入りすることが多い。また裁判官が経済実態に通じていなければ市場関係者が納得する判断は難し
い。」
(日本経済新聞2008年12月7日3面)
第三者割当増資に何らかの規制が必要なことは、このブログでも何度もお話ししています。ですが、株主総会決議で決めれば良いというのは、本質的な解決策にならず、結局株式持合を促進させるだけのことになると、私は思います。

主要国の第三者割当増資への規制は次のようになっています。
第三者割当増資への各国の規制例

米国
ニューヨーク証券取引所が、議決権の20%超に相当する新株発行について、株主総会決議を義務付け

英国
会社法により、原則として第三者に新株を割り当てる場合には既存株主にほ引受権を割り当て

ドイツ
株主総会が事前に認めていれば、監査役会の承認のもと議決権の10%以下の新株発行は可能」
経営者が株主を選べない、という意味では英国の規制が優れています。ただし、これを未上場会社にまで適用させるべきではありません。したがって、以前からお話しているとおり、上場会社法を我々は必要としているのだと改めて感じます。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-12-08 08:36 | 買収防衛策
2008年 10月 18日

敵対的買収へ? ノーリツ・スティールのケース

日米欧、時価会計一部凍結へ 金融危機封じへ非常手段
日米欧が一斉に、金融機関や企業が保有する債券や証券化商品などの金融商品を時価で評価する時価会計の適用を一部凍結する方向で動き出した。日本は民間の企業会計基準委員会(ASBJ)が16日、時価評価の対象外になる範囲を拡大するなど会計基準を見直す検討を始めた。市場の混乱を受けて時価会計凍結を検討する米国や、見直し策を打ち出した欧州に追随する。世界的な金融危機を封じ込めるため緊急措置に踏み切る。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20081017AT2C1601T16102008.html
【CFOならこう読む】
新聞報道にある通り、ノーリツは、スティールの買収行為を、「大規模買付行為に関する対応方針」(以下大規模買付ルールという)の適用除外としないことを決めました。

したがって、今後はノーリツが事前導入にしている大規模買付ルールに従って事が進められることになります。具体的には次の通りです。

1.大規模買付ルール遵守表明書の提出
2.大規模買付ルール遵守表明書提出後10日以内に、大規模買付情報の提供とその開示
3.取締役会評価期間及び株主熟慮期間の設定等取締役評価期間ー情報提供後90日間(全部買付でない場合)株主熟慮期間ー取締役会評価期間満了後30 日間


特別委員会への諮問については次のように定められています。
「当該大規模買付行為が当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に反すると認められるか否かの検討及び判断にあたって、当社取締役会は、大規模買付者の提供する買付後の経営方針等を含む情報に基づいて当該大規模買付者及び大規模買付行為の具体的内容(目的、方法、対象、取得対価の種類・金額等)や当該大規模買付行為が当社株主共同の利益に与える影響を検討いたしますが、その客観性及び合理性を担保するため、当社取締役会が適切と判断する時点において、特別委員会に対して当該大規模買付行為が当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に反すると認められるかどうかにつき諮問し、その勧告に従うとともに、社外監査役全員の同意を得ることといたします。但し、当該特別委員会の勧告に従うことが、当社取締役の善管注意義務に違反することとなる場合にはこの限りではありません。
なお、当該特別委員会の勧告が、当該大規模買付行為は当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に反するとは認められないとする内容であって、当社取締役会が、これと異なる判断を行おうとする場合は、下記(3)の要領により株主意思の確認手続きをとることができるものとします。」
要するに特別委員会が、大規模買付行為が当社の企業価値及び株主共同の利益の確保・向上に反すると判断し、取締役会も同じ判断である場合には買収防衛策の発動が出来る設計になっています。

この点スティールはノーリツの大規模買収ルールについて、次のように批判しています。
「我々は、貴社取締役会が2007年に導入されている、貴社株式の大規模買付行為に関する対応方針(以下、「買収防衛策」といいます。)の内容を存じております。当ファンドは、過去の経験より、このような事前警告型の買収防衛策は、主に交渉の機
会の限定と経営陣の保身を目的としているため、欠点が多いと考えております。また、貴社の買収防衛策に基づく手続きは一応「独立した」特別委員会の監督を受けることとなっておりますが、当委員会の委員は内部出身者からなる取締役会により選任され、当買収防衛策においては貴社取締役会が最高の意思決定機関とされております。このように、明らかに独立性を欠き、利益が相反していることに鑑み、当ファン
ドは貴社に対し、一切対抗措置を発動せず、当ファンドの買付提案に応じるか否かを個々の株主の一存に任せられるよう、要請いたします。」
今後の展開は予断を許しませんが、スティールは買収を止めないとすると、買収防衛策の発動、それに対する差し止めの仮処分の申し立て、最終的には最高裁の判断に委ねる、という風に進んでいくのではないか、と私は思っています。

【リンク】
2008年7月14日「スティール・パートナーズ・ジャパン、 ノーリツに主力事業への集中と不採算事業の閉鎖を要請」スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、
エル・ピー
http://www.spjsf.jp/pdf/080714-noritz_j.pdf

2008年9月11日「スティール・パートナーズ・ジャパン、ノーリツに買収提案」スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)、
エル・ピー
http://www.spjsf.jp/pdf/080911-noritz_j.pdf

平成20 年10 月17 日「SPJSF からの書簡における当社大規模買付ルール適用除外同意の要請に対する回答について」株式会社ノーリツ
http://www.noritz.co.jp/news/2008files/081017_01.pdf

2008年10月17日「『当社の見解』に関する補足資料」株式会社ノーリツ
http://www.noritz.co.jp/news/2008files/081017_02.pdf

平成20年10月17日「SPJSF に対する回答書簡について」株式会社ノーリツ
http://www.noritz.co.jp/news/2008files/081017_03.pdf

平成19年2月13日「当社株式の大規模買付行為に関する対応方針(買収防衛策)について」株式会社ノーリツ
http://www.noritz.co.jp/news/2007files/070213.pdf




by yasukiyoshi | 2008-10-18 11:45 | 買収防衛策
2008年 09月 24日

ワークスアプリケーション、買収防衛策取り下げ

ワークスアプリケーションズ、買収防衛策を取り下げ
業務用ソフト開発のワークスアプリケーションズは22日、24日開催の定時株主総会の議案から買収防衛策(大規模買い付けルール)にかかわる事項を取り下げると発表した。半数以上の議決権が株主総会前に書面で行使された結果、反対が多数で、否決の可能性が高いと判断した。現在の防衛策は10月31日で失効する。
http://www.nikkei.co.jp/news/tento/20080924AT2D2201G22092008.html
【CFOならこう読む】
ワークスアプリケーションが導入を予定していた大規模買付ルールは、議決権割合が20%以上となる大規模買付の場合次の手順に従うことを要請するものです。

①大規模買付行為に関する意向表明書の提出
②大規模買付行為に関する情報の提出
③特別委員会の設置、対応
④取締役会としての意見の通知


買収者が上記ルールに従わない場合、必要に応じて対抗措置を講ずるとしていますが、その具体的な対抗措置については新株予約権の無償割当に限定されません。

ワークスアプリケーションが導入を予定していた大規模買付ルールは、特別おかしなものではありません。これが会社が説明するように、企業価値・株主共同の利益に対する明白な侵害をもたらすもの、いわゆる2段階買収のように株主に対象会社株券等の売却等の売却を事実上強要するおそれがあるもの、対象会社の株主や取締役会が大規模買収者の提案条件等について検討し、取締役会が代替案を提供するために必要な情報や時間を十分に提供しないもの、を排除するためだけに在るのなら問題はないと言えます。

しかしこのルールが経営者保身の道具となり得ることを、多くの株主は敏感に感じとり、反対票を投じたのでしょう。こういうニュースは、経営者をまたぞろ株式持合いに走らせるのでしょうね。

今必要なのは、岩井克人氏が「M&A 国富論」(プレジデント社)で強調しているように、買収防衛に関するルールを法制化することだと思います。

【リンク】
平成20年9月22日「定時株主総会における一部議案の上程取下げおよび『定款の一部変更に関するお知らせ』の一部変更に関するお知らせ」株式会社ワークスアプリケーションズ
http://ir.worksap.co.jp/press/press/media_1222070235_j.pdf

平成20年7月30日「当社株件等の大規模買付行為に対する対応方針(買収防衛策)に関するお知らせ」株式会社ワークスアプリケーションズ
http://ir.worksap.co.jp/press/press/media_1217415707_j.pdf

M&A国富論―「良い会社買収」とはどういうことか
岩井 克人

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by yasukiyoshi | 2008-09-24 11:02 | 買収防衛策
2008年 07月 29日

企業価値研究報告書の位置付け

司法判断に抵触する内容 「ガイドライン」不適切 個別事例の蓄積重視せよ
今年6月30日、企業価値研究会(経済産業省産業政策局長の私的研究会)は、「近年の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」と題する報告書(第三次報告書)を公表した。これは2005年5月の第一次報告書及び2006年3月の第二次報告書に続く、同研究会がまとめた買収防衛策のあり方に関する三番目の報告書である。
(日本経済新聞 2008年7月29日 27面 経済教室 「買収防衛策ー企業価値研究会をめぐって㊤」 太田洋弁護士)
【CFOならこう読む】
6月13日の記事(http://cfonews.exblog.jp/8120482/)で、私は企業価値研究会及び第3次報告書に対する違和感を次のように表現しました。
「ただあえてこのようなものを出さなければいけないというのはどういうことなのか、こんなものがなければ、司法も弁護士もまっとうな判断ができないのか、そうだとするととても情けない話だと私は思います。」
太田弁護士は、企業価値研究報告書の姿勢を「司法の独立性に対する行政の介入」として次のように批判しています。
「最高裁の判断に受け入れ難い部分があるなら、「ガイドライン」に類する形ではなく、立法提言の形や、それに対する(論評としての)「批判」の形で報告書を公表すべきである。建前上は「私的」研究会であるとはいえ、経産省という行政機関の公的権威をバックに、最高裁の判断内容の一部を事実上否定するような内容を、法令との関係や位置付けも不明確な形式で一般的に通用させようとするのは、三権分立の原則からも「ルール違反」といわざるを得ない。これでは企業や株主、投資家の間に無用の混乱を招いてしまう。
あえて批判をおそれずにいえば、わが国は、法的根拠の乏しい、官僚主導のルール形成や裁量行政が幅を利かせる時代を過去のものとしたはずである。実務も「お上」頼みでむやみに行政に「指針」を求めるのは自己責任の放棄である。」
経産省としては、日本の資本主義の健全の発展のために、買収防衛策のあるべき方向性へ誘導することが、自分たちの使命だと考えているようですが、ブルドックソース事件の際の、経産次官の「東京高裁判断は画期的」(http://cfonews.exblog.jp/6090182/)という発言からもわかるように、経産省の描くビジョンも一枚岩ではありません。導きたい方向性があるなら、現政権の政策としてそれを明確にしたうえで、国民に信を問うのが筋だと私は思います。

【リンク】
平成20年6月30日「企業価値研究会報告書-近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方-」経済産業政策局産業組織課
http://www.meti.go.jp/report/data/g80630aj.html


by yasukiyoshi | 2008-07-29 08:57 | 買収防衛策
2008年 06月 13日

企業価値研究会の「買収防衛策のあり方」に関する報告書のポイント その3

【CFOならこう読む】
「買収防衛策のあり方」に関する報告書(案)が入手できました。全13ページの小さなもので、企業価値報告書の適用指針といった内容になっています。まだ正式に公表されていないので、その詳細をここで示すことは控えますが、新聞報道のとおり、

①買収防衛策の発動は時間・情報や交渉機会の確保を目的とする
②その発動には相当な条件が必要となる
③株主総会で形式的に承認を得たとしても、それで買収防衛策が正当化されるわけではない
④買収者に対する金員等の交付は行われるべきでない
⑤特別委員会の勧告内容に従ったからといって、直ちに取締役会の判断が正当化されるということにはならない


といったことが書かれています。

これらはすべて、昨年来、私がこのブログでお話ししてきたことと見解を同じくするもので、内容自体に異論はありません。

ただあえてこのようなものを出さなければいけないというのはどういうことなのか、こんなものがなければ、司法も弁護士もまっとうな判断ができないのか、そうだとするととても情けない話しだと私は思います。

昨日原弘産がTOBを提案している日本ハウズイングの株主名簿閲覧、謄写を求めた問題で東京高裁は東京地裁決定を取り消し、日本ハウズに閲覧・謄写を命じた決定をしました。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080613AT1D1208R12062008.html

「買収防衛策のあり方」に関する報告書(案)には、
「買収者による株主名簿閲覧請求に対し、仮に形式的に閲覧拒否事由に当たる事由が存するとしても、被買収者が専ら買収を妨害する目的で閲覧を拒絶するなどし、株主名簿の閲覧請求を拒絶することが権利の濫用(民法第1条第3項参照)である場合は、株主名簿の閲覧請求を拒絶してはならないと考える。」
との記載があり、東京高裁の判断に少なからず影響を与えたのかもしれないなどと、穿った見方をしたくなってしまいます。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-06-13 08:09 | 買収防衛策
2008年 06月 12日

企業価値研究会の「買収防衛策のあり方」に関する報告書のポイント その2

買収防衛策の発動、保身目的に警鐘 経産省研究会
経済産業省の企業価値研究会(座長・神田秀樹東大大学院教授)は11日、敵対的買収防衛策のあり方に関する報告書をまとめた。買収者と経営者の対話を促すのが防衛策の本来の役割との見解を強調。要件を厳しくし、経営者が自らの立場を守ろうとするような発動に警鐘を鳴らした。すでに防衛策を導入している企業は修正を迫られる可能性がある。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080611AT3S1102911062008.html
【CFOならこう読む】
「買収防衛策のあり方」に関する報告書がまだ入手できていないので、今日も新聞記事から得られる情報に基づいて書いてみます。

修正前の企業価値報告書は、「企業価値を損ねる敵対的買収を排除し、企業価値を向上する敵対的買収には機能しないような防衛策」のルール作りを目指してまとめられました。そうすると「企業価値」を明確に定義し、かつそれが測定可能なものでなければ、ルールになり得ないはずです。ところが、修正前企業価値報告書は、「企業価値」を、「会社の財産、収益力、安定性、効率性、成長力等株主の利益に資する会社の属性又はその程度をいう。換言すると、会社が生み出す将来の収益の合計のことであり、株主に帰属する株主価値とステークホルダーなどに帰属する価値に分配される。」というように、何とも曖昧に説明をしています。この曖昧な定義が現在の買収防衛策を巡る混乱の元凶であると、私は思っています。

企業価値というのは、コーポレートファイナンスという学問で研究されている領域です。ならば「企業価値」という用語を使うのなら、経済学における定義を無視することはできないはずです。

コーポレートファイナンスにおいて、

「企業価値」とは、「将来キャッシュフローの現在価値の総和」

と定義されます。そして、これは市場で日々評価されるという意味で、

「企業価値」=有利子負債の価値+株式価値

と言い換えることができます。

今日の新聞記事によると、新しい報告書は、「企業価値と株主利益は同義で「キャッシュフロー割引現在価値」を指す」としているようなので、この点では大きな改善が見られたと言って良いように思います。

ところがそれで万事解決というわけにはいきません。
日本では「企業価値」をコーポレートファイナンス的に正しく理解している人が極めて少ないのです。

下に載せているのは、北尾さんと佐山さんの対談の抜粋です。
この2人は皆さんもご承知の通り、M&Aの分野における第1人者ですが、2人の「企業価値」談義が私にはどうにも理解できないのです。

具体的に指摘します。
佐山 経営学者は「株式の価値プラス有利子負債の価値の合計」を示す「エンタープライズバリュー」という言葉をよく「企業価値」と訳しますが、その定義では、資本がすべて借り入れの会社と、すべて自己資本の会社の企業価値が同じになってしまう。
経営学者ではなく、経済学者の間違いじゃないかという点はさておき、法人税下のMM理論では、100%負債の会社の「企業価値」は、100%資本の「企業価値」より節税効果の分だけ大きくなると説明されますし、また倒産コストを考慮することによっても両者の価値は異なります。そしてこれらの要素を織り込んだ上で、資本市場は価格付けを行うので、少なくとも理論的には、デットレシオは株価に影響を与えると言えます。
北尾 ROE(自己資本利益率)を上げ、企業価値を増加したいといって、安易に自社株買いをやる。
コーポレートファイナンスでは、自社株買いはROEを上昇させはするが、「企業価値」には無関連であると説明されます(ただし資本構成の変化の影響は受けます。これをリキャップといいます)。
わずかなキャッシュフローをひねり出すために、R&D(企業の研究・開発部門)を切ろうとしたり、設備投資をやめようとする。1990年代の日本企業はこのような手段ばかりを選択しましたが、このやり方はほんとうに正しいのか。
「企業価値」は「将来キャッシュフローの現在価値」です。今、わずなかキャッシュを捻り出すために、将来キャッシュフローを犠牲にすれば、「企業価値」は毀損します。


以上は教科書的な議論です。でも「教科書」を理解していなければ「企業価値」を理解できないのも事実なのです。

「企業価値」はとても難しい。

だから私は全て割り切って「株主価値」で判断することにしたら良いと思うのです(結論としては佐山さんと同じなのかも知れません)。「株主価値」なら「株価」で測れるので、解釈の余地がありません。

提言:「企業価値研究会」改め「株主価値研究会」としよう!!

************************************************
M&Aで強くなる日本経済(1)/北尾吉孝(SBIホールデイングスCEO)、佐山展生(一ツ橋大学院国際企業戦略研究科教授、GCAサヴィアングループ取締役)

北尾 「企業価値」の判断基準というのはとても重要な論点ですね。
 
佐山 経営学者は「株式の価値プラス有利子負債の価値の合計」を示す「エンタープライズバリュー」という言葉をよく「企業価値」と訳しますが、その定義では、資本がすべて借り入れの会社と、すべて自己資本の会社の企業価値が同じになってしまう。

どう考えてもこれは誤訳だから、「それぞれの立場にとっての企業価値があるけれど、M&Aの世界ではいろいろな立場の人にとっての企業価値のかなりの部分を内包している全株式の価値を『企業価値』とするのが分かりやすいと思う」と提案しましたが、皆さんの賛同を得ることはできませんでした。「企業価値研究会」ですら、「企業価値とは」というコンセンサスを得ることができなかったのです。

 面白かったのは1年後に新しく研究会に入った方が、「ここでいう企業価値とは何ですか?」と同じ質問をされた。そうしたらある弁護士が、「『企業価値とは』なんて神学論争はやめましょう」といわれた。「企業価値」が「神学論争」扱いにされてしまっているんです。
 
北尾 私も2005年に『進化し続ける経営』という本を上梓しましたが、そのなかでアメリカのビジネススクールが教える「エンタープライズバリュー」を「企業価値」とする見方に反対しました。この定義は事業経営者から見て間違いだ、と思ったのです。たとえばROE(自己資本利益率)を上げ、企業価値を増加したいといって、安易に自社株買いをやる。わずかなキャッシュフローをひねり出すために、R&D(企業の研究・開発部門)を切ろうとしたり、設備投資をやめようとする。1990年代の日本企業はこのような手段ばかりを選択しましたが、このやり方はほんとうに正しいのか。『進化し続ける経営』では次のような定義を行ないました。「企業」が提供する財・サービスに対して顧客がもたらしてくれる価値。これを「顧客価値」とする。株式の時価総額と負債の時価総額の和、つまり将来受け取りが予想されるフリー・キャッシュフローの現在価値を「株主にとっての価値」とする。さらには企業の差別化や創造を生み出す源泉である人材を「人材価値」とする。この3つの価値の総和を「企業価値」とすべきではないか、と。

顧客価値を高めるためには、よい商品・サービスを提供しなければならない。そうすれば企業の利益が増えて「株主価値」が上がり、待遇も良くなる。
 
佐山 優秀な人材も集まりますね。
 
北尾 そう、人材が揃えばまたよい商品が生まれる。好循環が生まれるのです。
(本記事は「SBIマネーワールド」内における対談企画を元に構成しています。)


【リンク】
「M&Aで強くなる日本経済(1)/北尾吉孝(SBIホールデイングスCEO)、佐山展生(一ツ橋大学院国際企業戦略研究科教授、GCAサヴィアングループ取締役)」
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080521-01-1401.html


by yasukiyoshi | 2008-06-12 11:54 | 買収防衛策
2008年 06月 11日

企業価値研究会の「買収防衛策のあり方」に関する報告書のポイント

買収防衛策、発動限定的に 経産省研究会
経済産業省の研究会がまとめる敵対的買収防衛策のあり方に関する報告書の全容が明らかになった。企業が実際に防衛策を発動する際の要件を具体的に明示。株主総会の議決に是非を委ねる方式での発動を経営者の「責任逃れ」とするなど、取締役会による的確な対応を求めたのが特徴だ。経営に規律をもたらすといった敵対的買収の効用にも言及し、経営者が自らの立場を守ろうとするような発動に強く警鐘を鳴らしている。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080611AT3S1001Y10062008.html

【CFOならこう読む】
報告書は本日(11日)公表されるようなので、一通り目を通してから、この場でまた取り上げることにしますが、新聞記事の箇条書きされたポイントを見て、一点非常に危惧されるところがあるので、今日はその点について書きます。

危惧されるのは、
「防衛策の発動に際し、買収者に対価として金銭を支払うべきでない」
というところです。

事前警告型ライツプラン(新株予約権を利用した買収防衛策)は、買収者だけ行使できない差別的条件を付した新株予約権を全株主に無償で割り当て、買収者以外の者に買収者登場前の時価よりも著しく低い価額で株式を取得させて買収者の持株割合を低下させる等の内容の防衛策を平時のうちに開示して事前警告を行うものです(「新株予約権の法務・会計・税務」税務研究会出版局)。

ところが国税庁が、「新株予約権を用いた敵対的買収防衛策に関する原則的な課税関係について(法人税・所得税関係)(平成17年4月28日)」の中で、「新株予約権が実際に交付された場合、法人株主は新株予約権付与時に新株予約権の時価相当額の受贈益が生じ、個人株主は行使時に株式の時価と権利行使価額との差額について課税が生じる」との見解を公表したため、経済産業省は平成17年4月28日に、有事において行使可能な第三者に譲渡可能な形で設計されたライツプランの新類型を発表し、同日国税庁は、「新株予約権を用いた敵対的買収防衛策の【新類型】に関する原則的な課税関係について(法人税・所得税関
係)」の中で、新類型の場合、課税関係は生じない旨明らかにしています。

現在の新株予約権を有償で買い取る実務は、この流れに沿ったものです。そして、この流れは経済産業省と国税庁が後押ししたものであったわけです。

今回の報告書が、この方向性を翻し、新類型のライツプランを否定するものであるなら、国税庁は平成17年4月28日の見解について見直しを行い、ライツプランを発動したとしても一定の要件を満たした場合、株主側では一切課税が生じない、ということにしないと実務は動かないと思います。

この辺りの調整が経済産業省と国税庁との間で出来ているのかどうかわかりませんが、国税庁としてもなかなか容認し難いところだろうと推察されます。

【リンク】
「1 事前警告型ライツプランに係る税務上の取扱い(第一類型)」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/050428/01.pdf
「新株予約権を用いた敵対的買収防衛策(ライツプラン)の【新類型】に係る税務上の取扱い(有事)」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/050707/01.pdf




by yasukiyoshi | 2008-06-11 08:17 | 買収防衛策
2008年 05月 15日

丸三証券の新型買収防衛策

買収者に対価支払わず 新型防衛策 丸三証券が導入
敵対的買収者に金銭など対価を支払わない新型の買収防衛策が登場する。丸三証券が導入する手法で、新株予約権を使って敵対的買収防衛者の株式持分を薄めても、対価を払わず、買収者自身に資金を回収させる仕組みだ。敵対的買収者に現金を払った昨年のブルドックソース以降、対価の支払いを明記する防衛策が増えたが、巨額の支払いを明記する防衛策が増えたが、巨額の支払いは企業価値を損なうとの批判が機関投資家から出ていた。
(日本経済新聞 2008年5月15日 16面)


【CFOならこう読む】
丸三証券のプレスリリースがまだ出ていないので、詳細は不明ですが、上記記事によると次のようなスキームであると思われます。

発行済株式総数 100万株、うち20万株を保有する敵対的買収者の持分を薄めるために、新たに会社は100万株の新株予約権を、敵対的買収者も含め全ての株主に対し発行する。このとき敵対的買収者は20万株の現物株と20万株の新株予約権を保有することになり、持分は20%で変わりません(=(20+20)/(100+100))。しかし買収者に割り当てた新株予約権の行使は、買収者が現物株を市場で売却した分だけしか認められません。

つまり2万株の現物株を市場で売却したならそれと同じ2万株だけ新株予約権の行使を認めるというものです。20万株の現物株を全株売却すると、20万株の新株予約権を行使できるので、買収者の手に20万株の現物株と20万株相当の現金が残ります。株価は半分になるので、結果として買収者に経済的損失を被らせることなく、持分を10%に薄めることができます。この方法ならブルドックのように、企業が新株予約権を買い取るために巨額の支払いをしなくてすむわけです。

この方法による希薄化効果は最大1/2しかないようにも思えますが(持株分の新株予約権の行使しかできないので)、そうではなさそうです。ブルドックのように発行済株式の3倍の新株予約権を発行した場合の効果はどのようになるでしょう。上の例でいうと会社が300万株の新株予約権を発行したなら、買収者は20万株の現物株と60万株の新株予約権を手にします。

20万株の現物株を市場で売却すると20万株の新株予約権の行使ができるので、20万株の現物株を手にすることができます。この現物株をまた市場で売却し、同数の新株予約権を行使するということを繰り返せば、最終的に買収者の手に残るのは20万株の現物株と60万株の現金ということになり、持分は5%にまで薄まります(=20/(100+300))。株価は1/4になるので、買収者に損得はありません(もちろん市場価格の一時的な高騰などがない場合の話です)。

それにしても日本だけでしか通用しない買収防衛策の設計のために頭脳とお金をつぎこむことにどれだけの意味があるのでしょう。早晩こんなものは通用しなくなるということがわからないのでしょうか?

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-05-15 09:51 | 買収防衛策
2008年 05月 07日

防衛策廃止を決めた資生堂株価続伸

米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や仏ロレアルなど外資大手がM&Aを繰り広げる化粧品業界。2年前に買収防衛策を導入して守りに入った資生堂が4月30日、防衛策の廃止を決めた。攻めへの転換を市場は好感し、株価は週末にかけて大幅続伸した。支持表明の広がりは、防衛策を導入する企業に対する市場の厳しい目を反映している。
(日経ヴェリタス 2008.5.4 11面)
【CFOならこう読む】
本件は、5月1日に当ブログで取りあげました。
http://cfonews.exblog.jp/7850217/

上記記事では、以下の後日談を伝えています。
「『サンキュー』。廃止を公表した2日後、資生堂に国際電話が入った。電話の主は同社株主でもある海外の機関投資家。決定の支持を伝えるものだった。ライバルの花王は買収防衛策を導入していない。市場関係者からは『そもそも導入しないのが当たり前』との声も聞かれる。」
買収防衛策の廃止を発表した4月30日の終値は2,495円、翌日の5月1日の終値は2,630円でした。上昇率は5.4%です。事例を積み重ねることにより、買収防衛策導入は株価にマイナス(廃止は株価にプラス)というコンセンサスが得られるようになることを期待します。

【リンク】
(株)資生堂 【東証1部:4911】Yahoo!ファイナンス
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=4911.t&d=c&k=c3&a=v&p=m25,m75,s&t=3m&l=off&z=m&q=c&h=on


by yasukiyoshi | 2008-05-07 08:05 | 買収防衛策
2008年 05月 01日

資生堂、買収防衛策を取りやめ

資生堂は30日、6月の株主総会までが期限となっている買収防衛策について継続しないことを決めたと発表した。2年前に事前警告型の防衛策を導入したが、金融商品取引法など株式取得に関連する法整備が進んだことに加え、業績の伸びで時価総額も増加、買収リスクが低下した。市場からの批判もある防衛策を継続していく意義は小さいと判断した。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1D3008O%2030042008&g=S1&d=20080430
【CFOならこう読む】
買収防衛策導入の企業は、2007年末時点で413社。このうち8割以上が「取締役会決定型」(買収意欲をそぐため新株予約権の発行で対抗する際に、第三者で構成する独立委員会の判断を仰ぎ、取締役会で最終決定する形)でした。しかし、昨年八月の司法のブルドック判断を境に、対抗策を発動する際に必要に応じて、株主総会などで承認を求める株主判断型が増加しつつあり、1―3月に導入を決めた企業は16社あります。(2008年4月7日 日本経済新聞)

また、この事例を参考にして「敵対的買収者に金銭など対価を渡す可能性がある」と明記する企業も1-3月に買収防衛策を導入した40社のうち5割近い19社に上りました。資生堂は、2006年6月29日の定時株主総会で「取締役会決定型」の買収防衛策を導入しましたが、今年の定時株主総会で買収防衛策の期限が切れるため、新たな制度設計を上のような他社事例を踏まえた上で検討していたものと思われます。

結論としては、「大量買付に関する法制度の整備状況も勘案し、当社としては、本定時株主総会において、本プランの継続をお諮りするよりも、新3 ヵ年計画を着実に実行していくことこそが、グローバル市場における当社の競争力と持続的成長性を高め、当社の企業価値ひいては株主共同の利益の確保・向上に繋がるものと判断し、本日開催の取締役会において、本定時株主総会終結の時をもって本基本方針を廃止し、以降、本プランを継続しない」(4月30日プレスリリース)ということです。

前田社長の「防衛作は『猛犬注意』の張り紙にすぎない。」との言葉はなかなかに含蓄があります。

なお、実務的には買収防衛策廃止に伴い定款変更(新株予約権無償割当ての決定機関に関する規定の削除)が必要となることに留意する必要があります。

【リンク】
平成20年4月30日「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収防衛策)の非継続について」株式会社資生堂
http://www.shiseido.co.jp/ir/ir_news/img/067.pdf

平成18年4月27日「当社株式の大量取得行為に関する対応策(買収防衛策)の導入について」
http://www.shiseido.co.jp/ir/ir_news/img/018.pdf



by yasukiyoshi | 2008-05-01 08:37 | 買収防衛策