吉永康樹の CFOのための読みほぐしニュース

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カテゴリ:資本コスト( 7 )


2008年 08月 26日

富士フイルムのMSCB

MSCB転換価格引き下げも 富士フイルム、株価低迷で希薄化の懸念
富士フイルムホールディングスの株式の希薄化懸念が台頭している。株価は8月5日に3130円の年初来安値を付けた後も低迷が続き、過去に発行したMSCB(株価により条件が変わる転換社債)の下限転換価格(3770円)を下回っている。この状況が続けば、約1ヵ月後には転換価格が大幅に引き下げられ、潜在株が増える公算が大きい。富士フイルムがMSCBを発行したのは2006年4月。液晶偏光版保護フイルムの能力増強や、需要が落ち込んだ写真フイルム事業のリストラに対応するために、ユーロ円建てで合計2000億円を調達した。同社としては1983年以来23年ぶりのエクイティファイナンスだった。
大型のエクイティファイナンスを円滑に実施するために、富士フイルムは次のような仕組みを採用した。MSCBは5年債、7年債をそれぞれA号・B号の2本ずつ発行し、野村証券が全額引き受けた。野村はSPCを通じてMSCBを裏付けとした富士フイルム株と交換できる交換社債を組成し、個人投資家を中心に販売した。

(日経ヴェリタス 2008年8月24日 15面)
【CFOならこう読む】
MSCBの転換価額は次の通り定められています。
イ.各本新株予約権の行使に際して払込をなすべき額は、本社債の発行価額と同額とする。

ロ.転換価額は当社、当社の代表取締役社長が、当社取締役会の授権に基づき、投資家の需要状況及びその他の市場動向を勘案して決定する。但し、当初転換価額は、本新株予約権付社債に関して当社と幹事引受会社との間で締結される引受契約書の締結日の終値に下記の数を乗じた額を下回ってはならない。

2011年満期A号新株予約権付社債及び2011年満期B号新株予約権付社債 1.4
2013年満期A号新株予約権付社債及び2013年満期B号新株予約権付社債 1.3

ハ.転換価額の修正
転換価額は、(2011年満期A号新株予約権付社債及び2011年満期B号新株予約権付社債の場合)2009年3月31日及び2010年3月31日又は(2013年満期A号新株予約権付社債及び2013年満期B号新株予約権付社債の場合)2008年9月30日、2009年9月30日、2010年9月30日、2011年9月30日、2012年9月30日(以下それぞれを「修正日」という。)の翌日以降、各修正日まで(当日を含む)の10連続取引日(但し、株式会社東京証券取引所(以下「東京証券取引所」という。)における当社普通株式の普通取引の終値(以下「終値」という。)のない日は除き、修正日が取引日でない場合には、修正日の直前の取引日までの10連続取引日とする。)の終値の平均値の90%に相当する金額に修正される。但し、かかる算出の結果、修正日価額が2006年3月7日の終値(以下「下限転換価額」という。)を下回る場合には、修正後の転換価額は下限転換価額とする。
(2006年3月7日プレスリリースより抜粋)
以上の条項に基づき、当初転換価額は、5年債は5278円、7年債は4901円に設定(その後、ストックオプションの発行によって5年債は5275.7円、7年債は4898.8円に変更)されました。

昨日の終値3390円は下限転換価額3770円を大きく下回っています。この株価水準が続き、5年債及び7年債の両方とも転換価額が下限転換価額に下方修正された場合、発行済株式数は約1割増加することになります。

富士フイルムは、2006年4月の時点で、なぜこのような希薄化のリスクがある資金調達手段を選択したのでしょうか?

富士フイルムの自己資本比率は、2006年3月時点で64.9%あり、エクイティファイナンスを必要とする状況ではありませんでした。資本コストの点から考えると、むしろデットでのファイナンスを選択するのが自然であったと思われます。にも関らずMSCBの発行に踏み切ったのはなぜでしょう? 

プレスリリースを見ると、発行理由の最後に次の記述があります。
「資金調達コストは、短期借入れや普通社債より低い金利コストとなり、新たな成長事業への投資を財務面からもサポートすることを目指しております」
これを見る限り、富士フイルムは、表面金利の安さのみを見て、低コストの資金調達手段としてMSCBの発行を選択したようです。

言うまでもなく、真のコストはオプション価値を勘案して算定されるべきで、表面金利が低いからと言って資金調達コストが安いことにはなりません。この辺のところを富士フイルムの経営陣が理解していたかどうかわかりませんが、いずれにしても当時の意思決定は誤りであったと私は思います。

【リンク】
平成18年3月7日「ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」富士フイルム株式会社
http://www.fujifilmholdings.com/ja/investors/pdf/other/ff_irnews_20060307_001j.pdf


by yasukiyoshi | 2008-08-26 10:03 | 資本コスト
2007年 12月 06日

M&AとEVA-花王のケース

トップに聞く企業戦略 花王 尾崎元規社長 来季からEVAを改善
花王がカネボウ化粧品を買収して間もなく2年。2008年3月期は原材料の影響もあり経常減益になる見通しだが、2009年3月期から増益基調への回復を目指す。国内家庭用品で生み出した資金を化粧品やヘスルケアなど成長分野に積極投資する姿勢は不変だ。尾崎元規社長に今後の戦略を聞いた。
(日本経済新聞2007年12月6日15面)

【CFOならこう読む】
尾崎社長は、「カネボウ化粧品を買収した影響でEVAは前期、導入以来初めて低下した。」と言っています。

買収時点でのカネボウ化粧品の営業利益が約200億円、節税効果が年間約150億円(商標権償却50億円+繰越欠損金80億円)、投資額4200億円、法人税率40%、加重平均資本コスト7%を前提にカネボウ化粧品買収によるEVAへの影響額を計算すると、

200億円×(1-0.4)+130億円-4200億円×7%=▲44億円

となります。

つまり当初からEVAへのマイナスの影響は見込まれていたことになります。EVAで業績評価をしている会社がEVAにマイナスの影響がある投資を実行するのはなかなか勇気がいると思いますが、中長期的に投資の効果を測るしっかりとした評価軸を持っているのでしょう。

花王の評価軸がどのようなものかわかりませんが、EVAを導入している企業は、将来EVAの現在価値の総和がプラスであるかどうかで判断するのが普通です。一般的には、投資の意思決定は、DCF法により行われますが、将来EVAの現在価値とDCF法による正味現在価値は理論的には全く同じものを計算していることになります。

EVAのメリットとして、投資の評価から、単年度の業績評価まで一気通貫でEVAというひとつの評価手法のみでいける所は強調して良いと思います。

【リンク】

EVAについては、ビジネスゼミナール「経営財務入門」〔第3版〕
井手正介・高橋文朗著 日本経済新聞社等を参照してください。

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by yasukiyoshi | 2007-12-06 08:48 | 資本コスト
2007年 08月 31日

社債、上乗せ金利拡大・サブプライム問題の余波

米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題に端を発した世界的な信用収縮懸念を受け、日本企業の資金調達コストが上昇し始めた。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20070831AT2C3003X30082007.html


(CFOならこう読む)

企業の社債スプレッド幅(国債に対する上乗せ金利)が
2倍に広がっているというニュースです。

これは資金調達コストが上昇していると見るのは正しくないと思います。
信用収縮を受けて長期金利(10年国債利回り)が大きく低下しています。
右のグラフを見ればわかるように、
サブプライム問題以前は1.9%を超えていた長期金利が1.5%まで低下しています。
つまりスプレッド幅が2倍になっているとしても社債金利は低下しているのです。

今後日本の金利は間違いなく上昇していきますので、
サブプライム問題を受けて長期金利が低下している今は、
絶好の起債のチャンスだと思います。

by yasukiyoshi | 2007-08-31 08:52 | 資本コスト
2007年 06月 06日

伊藤園、無議決権優先株上場準備へ定款変更発表

伊藤園は5日、議決権がない代わりに配当を優先的に支払う「無議決権優先株」の発行に備え、定款を変更すると正式に発表した。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20070605AT1D0507D05062007.html

(CFOならこう読む)
無議決権優先株式の価値は、理論的には将来配当の期待値を
優先株式の資本コストで割引くことにより算定されます。

この株式が上場され、市場が実際上どのような評価を下すか
楽しみです。

by yasukiyoshi | 2007-06-06 08:39 | 資本コスト
2007年 06月 04日

「為替」強い米経済指標受けた利下げ観測後退、ドル上昇122.14円

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070604-00000002-fis-brf

(CFOならこう読む)
インフレの足音が聞こえてきます。

インフレ下の経営とデフレ下の経営では相当に違う部分があります。
財務面では、投資の意思決定の際のハードルレートを
インフレ期待の分だけ切り上げるなら、
将来キャッシュフローの見積りもインフレを勘案した形で
見直す必要があります。

by yasukiyoshi | 2007-06-04 07:02 | 資本コスト
2007年 06月 01日

HOYA・ペンタックス統合決着

HOYA・ペンタックス、6月上旬にTOB実施で合意
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT3L31046%2031052007&g=S1&d=20070531

HOYA、ペンタックスへTOB決議
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1C31002%2031052007&g=S1&d=20070531

HOYA、ペンタックス買収資金1050億円を全額借入
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20070601AT1D3109Q31052007.html

(CFOならこう読む)
当初は合併することで合意していましたが、
迷走2ヶ月の後、HOYAの子会社として買収することになりました。

しかし、なぜもともと統合スキームとして合併を選択したのでしょうか。

合併や株式交換は新株発行を伴うのでダイリューション(希薄化)が生じます
(自己株売却でも同じです)。
TOBなら現金で株式を取得するのでこれを回避できます。

それでも合併で行こうとしたのは、
ペンタックスがHOYAに買収された、という形にしたくなかったからでしょう。
買い手・売り手を明確にせず、対等合併を謳う、
というのが伝統的な日本の統合のやり方です。
ペンタックス側の混乱の結果、売り手・買い手が明確な「TOB=買収」
で決着したのはなんとも皮肉な感じがします。

HOYAは買収資金1,050億円を借入で賄うということですが、
HOYAは無借金&自己資本比率81.6%と強固な財務基盤を持つ会社なので、
これくらいの借入は何の問題もなく実行できますし、
格付けへの影響もないでしょう。

しかし、HOYAはなぜ無借金でなければならないのでしょうか。
借入により自己株取得を大量に行い、資本コストの引き下げを図り、
最適資本構成を達成するといった財務戦略をなぜとらないのでしょうか。

HOYAは業績評価手法としてEVAを使用しているので、
資本コスト引き下げの重要性は十分に理解しているはずです。
この辺りのところは江間CFOにぜひ直接伺ってみたいところです。
いずれにしても、資本コストという点から見ると、
合併ではなく、TOBで良かったと言えます。

その意味では、TOB後の少数株主のスクィーズ・アウトを株式交換ではなく、
キャッシュを支払う形で実行すべきでしょう。

by yasukiyoshi | 2007-06-01 08:55 | 資本コスト
2007年 05月 30日

長期金利が上昇、今年最高に迫る

債券市場では、長期金利の代表指標である新発10年物国債利回りが一時前日比0.030%高い1.755%に上昇し、1月に付けた今年最高水準(1.760%)に迫った。

http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2C2902V%2029052007&g=E3&d=20070529

(コメント)
金利上昇は実体経済にさまざまな影響を与えます。
中でも為替に与える影響は特に重要です。

しかし、円高に振れるか円安に振れるかは一概に言えず
その判断は難しいものがありますね。

一般には円キャリートレード(低コストの円で資金調達し、
外貨で投資を行うこと)が手仕舞いに向かうので、
円高に振れるという見方が優勢ですが、

「日本の銀行にとって利上げは調達金利上昇につながる一方、
貸し出しは簡単に伸びそうにない。しかも、国内金利が上がれば日本の債券は
買いづらい。となると、投資の行く先は外債になる。」
(クレディ・スイス証券チーフエコノミスト 白川浩道氏/「週刊東洋経済」2007年6月2日号)

ので円安が進行するという見方もあります
結局のところ、自社にとって保守的に予測する、
ということしかないのかもしれませんね。

by yasukiyoshi | 2007-05-30 08:48 | 資本コスト