吉永康樹の CFOのための読みほぐしニュース

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2007年 11月 30日

金融一体課税 財務省案

少額配当は税軽減継続・金融一体課税、20%で09年導入
財務省がまとめた金融一体課税の具体案が29日明らかになった。2009年から株式譲渡益と配当の損益を通算できるようにするが、税率は20%に引き上げる。一方で、年間の配当所得が一定額を下回れば、引き続き10%の軽減税率を選ぶことができる。株式譲渡益についても08年末時点で保有する分については、当面10%の軽減税率を適用する。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20071130AT3S2901M29112007.html

【CFOならこう読む】
今日も税金の話です。ここでも全くビジョンが感じられません。少額配当は税率軽減(10%)継続でキャピタルゲインに対する税率は20%に引き上げる、というのはどいうことでしょう。

投資家にとってみれば、配当とキャピタルゲインに違いはありません。配当を今もらえば、その分将来のキャピタルゲインが減るだけの話です。投資家はそれぞれの資金ニーズに応じ、当座の現金が必要なら配当を多くもらえる銘柄、今は現金が必要ないけれど何年後(または何十年後)かにまとまった現金が必要なら無配の銘柄を選択するのです(これを配当の顧客効果と、コーポレート・ファイナンスという学問では呼びます)。

そもそも配当だろうがキャピタルゲインだろうが、これにかかる税金は企業ですでに税金を支払った後の利益に対してかかるものです。これに対しさらに20%もの課税を行う理論的な根拠はどこにあるのでしょう。さらに問題だと思うのは、企業の財務行動に影響を与える恐れがあることです。

企業は成長ステージにより資金需要が様々です。成長期にある企業は、資本コストを上回る投資機会が多く存在するので、配当はせずその資金を投資に回した方が株主価値を創造できるのに対し、成熟企業は、安定的にキャッシュを獲得できるがこれを再投資に回すだけの投資機会がないので、余剰資金は全て株主に配当として還元することで株主はこのお金を成長企業に投資することができるのです。

つまり配当により株主に還元するかキャピタルゲインによって還元するかは、その企業の経営者の自由な判断に委ねられるべき事項で、このような経営判断に対し税制は中立でなければなりません。配当の税率が10%、キャピタルゲインに対する税率が20%では、企業の財務行動が歪められる可能性があるのです。

私は配当、キャピタルゲインともに無税とすべきだと考えています。相続税で捕捉すれば良いのですから、税収的には大きな問題はないはずです。市場が有効に機能するためには、今こそ国は、普通の個人にもっともっと株式投資をしてもらわなければならないというメッセージを発する時だと思うのですが、自民党も民主党も全く駄目ですね。

【リンク】
なし


by yasukiyoshi | 2007-11-30 08:39 | 税制
2007年 11月 29日

政府税調会長「法人税率、下げ必要」

政府税制調査会(首相の諮問機関)の香西泰会長は28日、2008年度税制改正答申の決定を受けて日本経済新聞のインタビューに答え「国際水準をにらみ、法人実効税率を引き下げていくのが望ましい」と強調した。答申では法人税改革は中長期的な課題とするにとどまったが、来年以降に改めて税率下げを議論する意向を示したものだ。消費税については「低率で簡素な税制を維持すべきだ」と指摘、税率上げは最小限にとどめるべきだとの考えを示した。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20071129AT3S2800V28112007.html

【CFOならこう読む】
政府税調会長香西氏は法人課税の実効税率(40%)が主要国で最も高い水準にあることから引き下げを実現すべきだと考えていることを力説したそうです。

それはその通りだと思うのですが、一方議論のポイントがずれているのではないか、という思いもあります。昨日の会見で香西氏は、企業税制について次のように述べています。
「経済成長を重視するとなれば、法人実効税率を下げるという方向になる。ただ、今年度の議論では税率を下げても投資に回らず、活性化の効果がないといった意見も出された。」
要するに「法人税率の引き下げにより投資が増えて経済活動が活発化することはない」という意見があると言っているのですが、これはどういうことでしょう。

野口悠紀雄氏がこの点著書『「超」経済脳で考える』で数値例を使って説明しているので少し長いですが紹介しましょう。

企業の最適資本ストックは、資本の税引後限界収益率が税引後資本コストに等しくなる水準で決まる。何らかの条件変化で最適資本ストックが変化した場合に投資が起こるのである。

ここで重要なのは、法人税制においては、支払利子は全額損金として扱われ、課税所得から控除されることである。したがって、投資資金が全額借入で調達される場合には、法人税率の引下げによって損金は新規借入額×法人税率引下げ分だけ減少し、その結果、もとの資本ストックのままで、資本の税引後収益率と税引後資本コストが等しくなる。

つまり、法人税率の変化は、最適資本ストックの水準に影響を与えないわけで、このため企業の投資行動にも影響を与えない。このことを数値例で説明しよう。

いま、法人税率は40%で、税引前の資本収益率は5%であるとしよう。したがって、100円の投資によって5円の収益が得られるが、2円を税で取られるから、税引後の収益率は3%になる。ここで、利子率は5%であるものとしよう(このように仮定しないと、資本ストックが最適にならない)。

この資本ストックの下で、法人税率が30%に下がるとしよう。前と同じ計算をすると、税引後の資本収益率は3.5%に上昇する。したがって、新規投資は起こらない。つまり、減税によってよって税引後資本収益率が上昇するにもかかわらず、投資を促進することにはならないのである。

(ただしこの議論は新規投資が借入で行われることが前提となっています。増資で新規投資が行われるなら、減税の効果はあります。…吉永注釈)


野口悠紀雄の「超」経済脳で考える
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つまり法人税率引下げにより、企業の投資が増えて経済活動が活性化することはない、というのが経済学の教えるところなのです。それでは、法人税率の引下げは日本経済に何の影響も与えないのでしょうか?

そんなことはありません。「CFOニュース」の中で何度も強調しているように、これからの日本は積極的に資本輸入することが不可欠です。

「外資に乗っ取られる」といったことを言う人がいますが、従業員の立場からは、会社が儲かれば資本が外国資本であっても何の問題もないし、株主の立場からは株価が上がればそれで良いのです。

外資導入には法人税率引下げが効くことについて同じく野口悠紀雄氏が「資本開国論」の中で次のように述べています。

ヨーロッパ諸国では、法人税率を引き下げる動きがある。オランダは、06年に法人税率を29.6%から25.5%に引き下げた。ドイツでは、実効税率を2008年から現行の39.9%から29%台に引き下げることとしている。フランスも、今後5年間で、現在の33.3%から20%への引下げを検討している。

(中略)ヨーロッパでこれまで行われてきた法人税率の引下げは、主として外国資本の誘致のために行われてきたのである。サッチャー首相は、80年代に法人税率を52%から35%まで漸次引き下げたが、この目的は外国資本を誘致することであった。

この結果、イギリスに対する直接投資は増加し、とくに金融においては「ウィンブルドン現象」と呼ばれる事態を引き起こした。ただし、それは第2章で述べたように、イギリスの経済の活性化につながった。

アイルランドの法人税率は、1993年の40%から今日の12.5%まで徐々に引き下げられ、先進国で法人税率が最も低い国となった。第2章で見たようにヨーロッパで最も貧しい国だったアイルランドは、80年代に急成長し、いまでは最も豊な国の一つになっている。

これをもたらし要因も、外国からの投資である。第2章で述べたように、外国資本の誘致は、自国内の雇用増のために有効であると考えられるようになっている。ヨーロッパで生じている法人税率の引下げ競争は、こうしたコンテクストで解釈する必要がある。


資本開国論―新たなグローバル化時代の経済戦略
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香西氏の議論のポイントがずれていると感じるのは、彼の言葉から外国資本誘致のために法人税率引下げが必要であるという視点が感じられないからです。外国資本誘致は今の日本の緊急の課題です。国を挙げて取り組まなければなりません。そのためには法整備だけでなく、ありとあらゆるインフラを整備し直す必要があります。

何より、“よそ者は受け入れない”という我々日本人全員に横たわるメンタリティの変革が必要です。それが出来なければ真の開国は実現しないと私は思います。

ですからことは税金だけの問題ではないのですが、それにしても税調会長たるもの、これからの日本のあるべき姿に対する明確なビジョンを持って税制改正に取り組んでもらいたいもの、と切に思います。

by yasukiyoshi | 2007-11-29 10:03 | 税制
2007年 11月 28日

のれんの償却期間延長―ゼンショーのケース

牛丼店「すき屋」を展開するゼンショーの異例の会計処理変更が業界内で話題になっている。2007年9月中間期から突然、のれん代の償却期間を延長した。単年度ごとの償却負担が減るため、今期の営業利益は上乗せされる。同社は短期から中長期的に投資を回収するM&A戦略に変えたためとするが、重い金利負担や回転ずし事業の行き詰まりなど、苦しい財務事情も見え隠れする。
(日経金融新聞2007年11月28日 5面)

【CFOならこう読む】
記事の中で中央大学の間嶋教授の「保守的な会計処理の観点から償却期間を短くするケースはあるが、延長はよほど正当な理由がないと認められない」という意見が紹介されていますが、その通りだと思います。

昨年エム・ピー・テクノロジーという会社がのれんの償却期間の延長について、会計監査人である中央青山が了解しなかったというような事例もあります。記事にあるように「会計処理の変更は当社からではなく、監査法人(あずさ)から言われた」ということが本当ならかなり問題だと私は思います。

【リンク】
2007年11月16日「2008年3月期 中間決算短信」株式会社ゼンショー
http://www.zensho.co.jp/documents/ir/report/pdf/20071116-1.pdf

平成18年6月15日「平成18年7月期通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」株式会社エムピー・テクノロジーズ
http://www.mptech.co.jp/jp/news/pdf/pr060615_02.pdf


by yasukiyoshi | 2007-11-28 09:24 | 会計
2007年 11月 28日

純粋持株会社へ移行―イオンのケース

イオン、持ち株会社移行・08年度、上場30社など傘下に
イオンは27日、2008年度中に持ち株会社に移行する方針を固めた。中核事業である総合スーパーを別会社として分離する一方、グループ全体の戦略策定を持ち株会社が担う。内外約30の上場会社を含めて、約150のグループ会社が傘下に入る形態は珍しい。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2F2700V%2027112007&g=S1&d=20071127

【CFOならこう読む】
スキームの詳細は不明ですが、現在事業持株会社であるイオンから「ジャスコ」を中心としたGMS事業を新設会社分割により分割し、不動産事業は吸収分割によりグループ各社に分割し、現イオンはグループ全体の経理・財務を担当する純粋持株会社へ移行することが予想されます。

セブン&アイは純粋持株会社で、傘下の企業のほとんどが100%子会社としてその下にぶら下がる形をとっているのに対し、イオンは事業持株会社の形式をとり、傘下の企業は必ずしも100%子会社ではなく、それぞれの企業の独自性を維持しながらグループとして緩やかに提携していくという方針で運営されてきました。

そういう意味で本来イオングループはジャスコが支配するグループではないので、ジャスコも他のグループ企業と同様に純粋持株会社の下にぶら下がるのが望ましいと考え今回の組織再編に至ったのでしょう。
しかし必ずしも持株比率にはこだわらず、純粋持株会社の下でゆるやかに傘下のグループ会社が提携するというイオン流のグループ経営には、グループ全体をスピード感豊かに一つの方向性を持って経営するという意味で大きな弱点を抱えており、この弱点は純粋持株会社へ移行しても簡単には解消されないと思います。

最近イオンが15%の持分を保有するCFS(HAC等のドラックストアを展開)がアインファーマシーズ(調剤薬局を運営)と経営統合することをイオンの承諾なく決定し、イオンはこれに正式に反対の意向を表明するという事件がイオン流の経営の難しさを象徴していると私は思います。

【リンク】

2007年11月27日「会社分割による持株会社の設立構想について」イオン株式会社
http://www.aeon.info/ICSFiles/afieldfile/2007/11/27/071127R_2.pdf

平成19年11月6日「株式移転計画書の作成及び最終契約書締結のお知らせ」株式会社CFSコーポレーション/株式会社アインファーマシーズ
http://www.cfs-corp.jp/corp/ir/pdf/briefnote/c_44.pdf


by yasukiyoshi | 2007-11-28 09:21 | 純粋持株会社
2007年 11月 27日

キャッシュリッチ企業による普通社債発行―HOYA、堀場製作所のケース

SB発行企業、株価を意識 脱・バリュートラップ目指す
株式相場が不安定な動きを続ける中、株式市場では上場企業がエクイティ・ファイナンス(新株発行を伴う資金調達)を避けて、国内普通社債(SB)による資金調達による資金調達に動いている。国内の公募SBの発行額は 既に昨年を大幅に上回った。これは単なる金利低下を背景とした負債シフトと片づけたくはない。割安株を見つける意外なヒントがあるかもしれない。
(日経金融新聞 20面 スクランブル)

【CFOならこう読む】
この記事は、負債比率上昇による資本コスト低下が、株価を上昇させる可能性があることについて書いています。ファイナンス理論的に言うと、倒産コストとエージェンシーコストを無視するなら、負債比率上昇により支払利息の節税効果が働くので、その分理論株価が上昇します。

記事はHOYAと堀場製作所について次のように書いています。
9月に総額1500億円のSBを発行し、ペンタックスの買収資金に充てたHOYA。HOYAにとって初のSB発行だった。実はHOYAは2007年3月期末時点で1200億円を超える現預金を抱えていた。この現金を充てずに、あえてSBで調達した意図は何か。「07年3月末時点で80%を超えていた連結ベースの自己資本比率を下げる絶好の機会」(広報担当者)とみたからだ。堀場製作所は約6年ぶりのSBを7月に発行した。総資産に占める現預金の比率は前期末時点で約11%超と潤沢だった。やはり狙いは06年12月期末で56%に達する「自己資本比率の引き下げ」(財務担当者)だった。
要するに両社は、負債比率上昇のために潤沢に保有するキャッシュを使用せず、普通社債により資金調達を行ったということを言っているのですが、この記事は明らかな誤謬に基づいて書かれています。この誤謬は企業価値評価を行う場合にもしばしば見られるので注意が必要です。どこが間違っているのでしょうか?

加重平均資本コストはネットデットと株主資本の構成比に基づき計算されます。ネットデット=有利子負債-余剰となっている現預金なので、有利子負債を増やしても現預金を減らしてもネットデットに影響はないのです。

実際HOYAと堀場製作所の過去3ヶ月の株価の推移を見ても両社に共通の傾向は見られません。
(HOYAの株価上昇はペンタックスの買収効果によるものと思われます。)

チャート
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チャート
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つまり当面資本コストを上回る投資機会がないのであれば、自己株取得または配当を行うべきなのです。これにより株主資本が圧縮されネットデットの比率が上昇するので資本コストを引き下げることができるのです。

日経の私の履歴書を今月は野村證券の田淵節也さんが書いておられますが、11月25日掲載分に現野村ホールディングス社長古賀信行氏の次のような言葉が紹介されていました。
「これからの経営は、利益は配当で吐き出し、利益が出なくなったら社長が替わればいいんじゃないか」
最適資本構成という観点からも非常に的を得ていると私は思います。

【リンク】
平成19年10月29日「平成20年3月期 第2四半期財務・業績の概況」HOYA株式会社
http://www.hoya.co.jp/data/current/briefingsubobj-235-pdffile.pdf

平成19年11月13日「平成 19年 12月期 第3四半期財務・業績の概況」株式会社 堀場製作所
http://www.jp.horiba.com/ir/pdf/2007111301.pdf

by yasukiyoshi | 2007-11-27 10:47 | 最適資本構成
2007年 11月 26日

オリックスの外国人持株比率67%

オリックス株、外国人3分の2保有・9月末67%
オリックスは9月末の外国人持ち株比率が67%と発行済み株式数の3分の2を初めて超えた。特定の外資の支配下にある企業を除くと、国内上場企業では最高。外国人株主が同一歩調をとれば、合併など重要事項を決める「特別決議」が可能な水準となり、経営への影響は大きい。ヤマダ電機でも外国人持ち株比率が 6割を超えるなど、有力企業で外国人の存在感が高まっている。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20071126AT2D2100E24112007.html

【CFOならこう読む】

記事の中に次のように記述があります。
「外国人投資家は高いリターンを求めて機動的に投資先を変える傾向があるため、外国人株主の多い企業は買収リスクが高くなりやすい」
これは一体何を言わんとしているのでしょうか。経済活動はボーダレスに行われており、特に資本は軽々と国境を飛び越えて行くのですから、優良企業の株主の多数を外国人投資家が占めることは当然のことと言えます。

そして普通の投資家は資本コストに見合ったリターンを会社に要求するものなのです。これが出来ない経営者は、M&Aにより強制的に退陣させられる、これにより効率的な資源配分を実現出来るのが市場型資本主義の大きな特徴の一つなのです。

記事では買収リスクが高くなることがあたかも悪いことであるかのように書かれていますが全くナンセンスです。これに対し藤木社長は、

「企業価値を高めることが最大の買収防衛策は。持ち合いはしておらず、市場にすべて委ねている。」と極めて真っ当なコメントをしています。この市場重視の姿勢が、外国人株主の買いを呼んでいるのでしょう。

オリックスの業績の推移
当期純利益およびROEグラフ
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総資産およびROAグラフ
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株主資本および株主資本比率グラフ
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1株あたり純利益(希薄化後)および純資産グラフ
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【リンク】
財務情報:オリックス株式会社
http://www.orix.co.jp/grp/ir_j/financial/index.htm

by yasukiyoshi | 2007-11-26 08:50 | 買収防衛策
2007年 11月 24日

「CFOニュース」を始めた理由

今日は3連休の中日です。読みほぐしたいニュースも特にないので、今日は少し趣向を変えて、このブログ「CFOのための読みほぐしニュース」を始めた理由について少しお話ししたいと思います。

日本では「CFO」という役職にまだまだ馴染みが薄く、「財務経理担当取締役」や「管理本部長兼取締役」のことを米国ではCFOというのだろう、という位の認識しかない人がほとんどです。

米国でさえCFOが脚光を浴びるようになったのは比較的最近のことで1990年以後です。1993年に米国のフォーチューンという雑誌が、市場型資本主義の時代を象徴する新しいヒーローとして「スーパーCFO」の特集記事を掲載しました。その特集記事を読むと米国の「CFO」とはどのようなものであるかわかるので、少し紹介したいと思います。
「スーパーCFOが単なる伝統的な「帳簿係」と決定的に異なるのは、その守備範囲が非常に広範な点にある。従来型のCFOはまるで帳簿の記入欄のような狭い世界で豆の数をチェックし、アニュアル・レポートを作成し、誰かが提案した設備投資案件を精査することに終始していた。しかし現代のスーパーCFOは最高級のゼネラル・マネージャーであり、財務戦略やディール・メイキングの専門家であることに加えて、業務全般にわたる該博な知識と鋭い経営戦略のセンスも兼備している。換言すれば、やり手のCFOは単に企業の価値創造のパフォーマンスを測定するだけでなく、価値創造そのものに深くかかわっている。」
(最強CFO列伝 井手正介日経BP社より)
e0120653_3455282.jpgそして「スーパーCFO」の代表選手として、コスト・カッターとして有名なIBMのCFOジェリー・ヨーク、ディズニーが190億ドルを投じて買収したキャピタル・シティーズ/ABCの案件を仕組んだステファン・ボーレンバック、そしてボーレンバックの師匠ゲリー・ウィルソン、採算の悪い新薬開発プロジェクトを正当化する公式を編み出したメルク社のクウォンツCFOジュディ・ルウェント、GEの21世紀に向けた事業ポートフォリオ構築の中心人物デニス・ダマーマンをインタビューを交え詳細に紹介しています。


e0120653_3463064.jpg彼らの報酬は数億円、ときには10億円を超えます。そんな「スーパーCFO」はまだ日本に存在しません。政官財が雇用を最優先に戦後奇跡的な復興を遂げるために、全ては“政策的に”にヒト、モノ、カネを動かしてきた日本では、“市場”も彼らの道具にすぎなかったのです。資金の循環は彼らの手先である銀行が一手に担っていたので、“株式市場”が機能する必要性は特になかったのです。しかしバブル崩壊とともに全ては吹き飛びました。今、日本は、好むと好まざるとグローバルな市場型資本主義の渦に巻き込まれようとしています。そしてそんな新しい時代に価値創造の担い手としての「スーパーCFO」の登場が待たれているのです。


e0120653_3465534.jpgしかし「財務経理担当取締役」が「スーパーCFO」に成長するためには多くのことを学ばなければなりません。自分の所属する会社のビジネス、競争戦略上の強み・弱み、バリューチェーンを完璧に理解した上で、会計、税法、会社法、金商法、ファイナンス、ITといった分野の知識を道具として使いこなせなければなりません。そして何より“市場”に対する深い洞察が求められます。表層的な株主価値創造ではなく、市民主義ともいうべき成熟した市場型資本主義の時代に、真の意味での公共の利益を創造しなければならないのです。

これは大変なことです。「スーパーCFO」は、答えのない問題と日々格闘していくのです。誰にも相談出来ず、七転八倒しながら結果を出し続けなければならないのです。そんな「スーパーCFO」になるために研鑽を続ける人のために、“市場”が提供してくれる毎日のニュースを題材に、実践演習の場を作りたいと思ったのがこのブログを始めた理由です。

今の日本には市場型資本主義の進化に伴う多くの混乱が見られます。間違ったことが平然と行われています。そもそも会社法にだっておかしな所がたくさんあります。法を犯してなければいいだろうではすまないのです。でもそんな時代だからこそ考えるべき題材が巷にあふれています。そこから10年後も20年後も通用する本質的な知恵を身につけることが可能だと思ったのです。そしてまがりなりにも半年続けてきました。

毎朝、その日の新聞から何かひっかかるニュースを見つけ、ネット上でさらなる情報を入手し、考えるに値する問いを立て、そして自分なりに正しいと思える解答を導き出す…、正直言ってかなりきつい作業です。毎朝8時には娘を幼稚園まで送り届けに行かなければならないので、それまでに作業を終わらせなければなりません。なので時間的にもかなりタイトです。

ですが能動的に問いを立て、短い時間の中で筋道を立てて考えるという作業を毎日続けるのって、物凄く自分自身が鍛えられるのです。人ために役立ちたいと思って始めたことですが、結局これって一番自分のためになっているじゃんと最近は感じます。

だから当分続けていきます。もちろん究極の目標はこのブログの読者から一人でも多くの「スーパーCFO」を生み出すことです。
最強CFO列伝 ― 巨大企業を操るもう一人の最高権力者たち
井手 正介

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by yasukiyoshi | 2007-11-24 09:00 | コラム
2007年 11月 22日

サイバードのMBO

ジャスダックから有名企業が1社退出しようとしている。携帯電話サイト運営のサイバードホールディングスだ。同社は先月末買収ファンドと組みMBO(経営陣が参加する企業買収)を実施すると発表。ファンドの子会社が株式公開買付(TOB)と買い取りなどで全株式を取得、上場廃止を目指す。意思決定を迅速化し広告を収入源とするサイト事業を強化するためだという。TOB期間は12月13日までで価格は6万円。過去3ヶ月間の終値の平均値に40.8%のプレミアムを乗せた。今回のMBOでは買い取り価格の妥当性を検討するための「第三者委員会」を設けるなど少数株主に配慮した。しかしサイバード株主の評判は芳しくない。
日経金融新聞2007年11月22日 20面

【CFOならこう読む】
MBOを支持する理由としてサイバードは次のようなリスクを一般株主に負わせることを回避するためであると説明しています。
中長期的な観点で企業価値向上策を実行するための新たなプラットフォーム事業の確立や既存のモバイルコンテンツ事業やコマース事業強化のための体制の整備とアクションを実行するには、短期的には業績鈍化が生じる懸念や、中長期にわたり利益の変動性が高まるリスクがあり、株主の期待に沿えない可能性があります。例えば、広告事業の本格的な収益化に向けたプラットフォーム構築のための大規模な投資を実施すれば一時的なコスト増加やキャッシュフローの悪化を招き、短期的な業績への影響が予想されます。また、コマース事業の競争力向上のための広告投資を拡大しても、同様に業績への影響が予想されます。

私にはこの説明は全く納得できません。株主価値というのは短期的な業績によって決まるものではなく、長期的に会社が稼ぐキャッシュフローによって決まるのです。大規模な投資によるコスト増加や広告投資の拡大をするために上場廃止しなければならないのだとすると、ほとんどの会社が上場を維持することは出来ないでしょう。株式市場はそこまで非効率ではありません。

一般的にMBOはLBOと同義です。
MBOというのは、買収ファンドが小額の自己資金を株式に投資をして、残りの(大半の)買収資金をノンリコース・ローンで調達するLBOの一形態なのだ。買収ファンドが上場企業を無理やりLBOで買収するというとマネーゲームのイメージが強く社会的に批判を浴びかねない場合に、買収ファンドが経営陣に参加を呼びかけるのだ。
(M&A最強の選択 服部暢達 日経BP社)
つまり、LBOの本質はデットの節税効果とデットのもたらす規律にあり、短期的に大きなリターンをバイアウトファンドは狙うことができるのです。参加を呼びかけられた経営陣はこのような投資機会はそうそうあるものではないので、乗り気になってしまうことがままあるのです。サイバードの場合、今年9月には分割を考慮した公募価格(約39,000円)を割り込むほど株価が下落しており、バイアウトファンドがここが好機と考え、投資に踏み切ることにしたものと思われます。

しかし、今まで散々夢と希望を語ってきた日本を代表するベンチャー企業の経営陣が、自己の利得のためにMBOするのだとしたら、とても悲しいと私は思います。

【リンク】
平成19年10月31日「当社株式に対する公開買に関する賛同意見表明のお知らせ」株式会社サイバードホールディングス
http://www.cybird.co.jp/hc/ir/news/pdfs/ir_20071031_v3.pdf

(株)サイバードホールディングス 【JASDAQ:4823】:Yahoo!ファイナンス
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=4823.q&d=c&k=c3&a=v&p=m130,m260,s&t=5y&l=off&z=m&q=c&h=on

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by yasukiyoshi | 2007-11-22 11:47 | MBO
2007年 11月 21日

TOB価格と株式交換比率

企業の合併・買収(M&A)が活発化し、「今までと勝手が違う」と感じている個人投資家も多いようです。中長期投資のつもりで買ったのに、突然、株式の公開買い付け(TOB)の対象になったり、親会社株との交換を要請されたりすることがあります。企業の身勝手さに憤る例も増えています。
日本経済新聞夕刊2007年11月20日 6面

【CFOならこう読む】
このコラムに当期上場会社の株式をTOBにより取得した後、株式交換により100%子会社化した案件のTOB価格と株主総会決議日終値ベースの割当株式価値を比較した表が掲載されていました。

この表にシティ・日興方式(株式交換効力発生日の15日前の株価により割当てると仮定)によった場合の株式価値を付け加えたのが下の表です。
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(日本経済新聞夕刊2007年11月20日 6面をもとに筆者が加筆修正)

100%子会社化する場合に少数株主をいかに保護するかが今問題になっています。TOBにより2/3超の持分を保有するに至った親会社は、ともすれば親会社の論理で少数株主を排除する場合があります。

少数株主の権利がないがしろにされるケースが度々あると、TOBに応募しなければ損をするというようなプレッシャーを株主に与えることになり好ましくありません(これを強圧的な買収といい、企業価値報告書では買収防衛策を発動しても良いケースとしています)。

この表を見ると徳に和光堂と丸紅のケースは酷いように思います。会社法(または上村・神田の公開会社法)はシティ・日興の事例等を参考に、徹底した少数株主保護を行うべく改正が必要であると私は思います。

【リンク】
平成19年8月29日「株式交換契約締結のお知らせ」丸紅株式会社
http://www.m-infotec.co.jp/ir/pdf/mi_newr/190829_kaijikabukoukan.pdf


by yasukiyoshi | 2007-11-21 10:42 | M&A
2007年 11月 20日

IPO相場低迷

新規公開数3割減 69社が公募割れ
19日までにIPOした110社のうち、27社の初値が公募価格を下回った。夏場以降の相場急落のあおりで直近株価が公募割れした銘柄は69社に上った。投資家心理をさらに冷やす悪循環に陥っている。
(日本経済新聞2007年11月20日 3面)

【CFOならこう読む】

記事に掲載された銘柄のうち19日終値が公募価格を下回ったのは、次の3銘柄です。
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この3銘柄に共通しているのは、公開後数日で大きく株価を下げている点です。これは会社の成長性について株主にうまく伝えられていないことが主な要因であると思います。

3社ともに筆頭株主(オーナー株主)の売出しがありますが、今のような市況の中で会社の成長性に対する確固とした自信を市場に示すために、オーナー経営者の売出しは避けるのが賢明であろうと思います。

オーナー経営者はキャピタルゲインを獲ってはいけないと言っているのではありません。しっかり業績と株価をあげてから大きくキャピタルゲインを獲りましょうと言っているのです。この点ディー・エヌ・エーの南場社長の自社株売却が参考になります。

南場社長は、上場時に全く自社株式の売出しを行っていません。上場後1年経過した2006年3月末株価を公募価格の4倍以上に引き上げた後、持株のごく一部である4,900株(持株比率は17%から15%に低下)を約15億5千万円で売却しています。

オーナー経営者たるものこれくらいの気概を見せて欲しいものですね。

【リンク】
(株)総和地所 【JASDAQ:3239】:Yahoo!ファイナンス
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=3239.q&d=c&k=c3&a=v&p=m65,m130,s&t=1y&l=off&z=m&q=c&h=on

(株)コーセーアールイー 【福証:3246】:Yahoo!ファイナンス
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=3246.f&d=c&k=c3&z=m&h=on


by yasukiyoshi | 2007-11-20 10:55 | IPO