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2008年 03月 31日

買収防衛策導入から3年 経営陣の保身見え隠れ

買収防衛策の導入が日本でスタートして丸3年。昨夏、最高裁も初判断を示し、6月総会を前に多くの企業で導入の是非などを巡り最後の検討が進む。防衛策の現状と展望を探った。
 (中略)
わが国での防衛策導入に拍車をかけた経済産業省「企業価値研究会」は米国モデルとした。20年以上前、普及が始まった米国の防衛策は現在、株主のために取締役会が買収価格を引き上げる交渉ツールとして機能している。
かたや、日本の経営者は経営権の移動を阻止する=地位を保全する役割を防衛策に期待しているようだ。実情に詳しいある識者は「従業員、会社を守るためだという経営者と話し込むと、自分のポストを死守するという本音が透けてみえる」と話す。背景にはわが国のサラリーマン社長の報酬が米国の敏腕経営者に比べ低いこと、社長が転職する経営者市場が未成熟なことが考えられるという。

(2008年3月31日 日本経済新聞 19面 法務インサイド)


【CFOならこう読む】

買収防衛策は、核爆弾同様、抑止力として利用するものであって、決して使用してはいけないものです。ところが日本の企業は、これを使用することを前提に考えるから、買収者に金銭的な保障をするとか、発動の際に株主の同意が必要とか、おかしな議論になるのです。

株主が買収の可否について判断できるだけの十分な時間と情報が開示されるなら、むしろ買収防衛策の導入は容認されない、という位の法的手当てが必要であると私は思います。特に従業員(=経営者)主権とも言うべき日本の上場企業では、組織の安定が優先されるに決まっています。

良くも悪くも組織に大きな変革を強いることになる敵対的買収を、企業価値が増大するなどという神の世界の論理で納得することなど到底できないのです。しかし良い買収は企業価値を増大させ、その結果社会全体の富を創造します。また買収の脅威は経営者への規律付け効果を生じます。ですから良い買収が経営者(=従業員)の裁量で排除されることは、法的に回避される手当てが必要だと私は思うのです。
ところで記事はこれを経営者の保身という趣旨で書いていますが、私はこれは違うと思います。

昨年10月6日に紹介した「歴史の終わり」(フランシス・フクヤマ著 三笠書房)という本の中の次の文章を再度引用します。
「たとえば、日本の文化は(東アジアの他の多くの国々と同様)個人よりも集団志向が強い。この集団は、家族というもっとも身近な最小単位からはじまり、躾や教育によって確立されるさまざまな師弟関係を通じて広がり、勤務先の会社、そしてさらには日本文化にとっていかなる意味においても最大の集団、国家にまでいたる。ある個人のアイデンティティは、まったくといっていいほど集団のアイデンティティに押し殺されている。彼は自分の目先の利益のために働くのではなく、自分が所属している集団や、あるいはもっと大きな集団の福利のために働くのだ。」

「こういう集団への一体化こそが、日本の大企業の一定部分にも採用され効果を発揮している半永久的な終身雇用のような慣行を生み出しているのだ。西欧の自由主義経済の教訓からすれば、終身雇用は被雇用者に安心感を与えすぎることによって経済効率を損ねてしまうはずである。」

「ところが日本文化のなかに育まれた集団意識の現状からいえば、会社が社員に示す家族主義的な温情に報いるため、社員の側は涙ぐましい努力を払い、自分自身の利益はもとより、いっそう大きな組織の栄光と名声のためにも働くことになる。」
経営者も従業員も会社という名の集団に殉ずる者達であり、”原理原則”を押し付けたところで何も変わらないのです。これを変えるのは”法の力”しかないと私は思うのです。

【リンク】

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by yasukiyoshi | 2008-03-31 10:12 | 買収防衛策
2008年 03月 29日

リストラ費用の持つ意味

上場企業の特損、4-12月期21%増 外需変調でリストラ加速 実効性、市場の目厳しく
リストラと巨額の特別損失-。いつか来た道を企業がたどり始めた。2007年4-12月期に上場企業(新興市場、金融除く3月期決算)が計上した特損は2兆4百億円。前年同期に比べ21%増え、今年に入っても基調は変わらない。通期でも前期の3兆7200億円を上回る可能性が強まっている。
(中略)
株式市場は相次ぐリストラを厳しく「監視」している。追い込まれた末の苦し紛れの一手なのか、将来の展望を開くための「選択と集中」なのかー。
新世代DVD事業の終息を決めた東芝。撤退に伴う一時的な損失として450億円を計上する。営業損益段階で計上する650億円の赤字と合わせ、新世代DVD事業の損失額は合計1100億円にのぼる。しかし、撤退報道を受けた2月18日は株価が急騰した。市場は「選択と集中」が進むとして、大規模なリストラを歓迎した。
「過剰な設備や人材を調整するだけのリストラと事業効率を高める前向きなリストラは性格が違う」と野村證券の藤田貴一ストラテジストは話す。業界内で限られたパイを争えば一握りの企業が勝者となるが、ほかは敗退せざるを得ない。展望の開けない事業に早々に見切りをつけることを、投資家は悪材料とは受け取らない。

(2008年3月29日 日本経済新聞 15面)
【CFOならこう読む】
CFOにとって大きなリストラ費用を計上するのはとても勇気がいることです。株価が暴落するのではないか…、そんな不安が頭をよぎります。

しかし投資家が見ているのは単なる会計利益ではなく経営そのものなのです。そして発生ベースの会計情報は、キャッシュフローを上回る多くの情報を提供してくれるのです。私の愛読書であるクリステンセンとデムスキの「会計情報の理論」(佐藤紘光他訳 中央経済社)に次のような記述があります。
「われわれは早くから、発生項目を会計生産物の中心的な存在として認識してきた。キャッシュベースの認識が用いられるとすると、会計システムはキャッシュフローのみを報告し、それ以外の何かを伝える能力をもたなくなる。発生主義会計が厳密に導入される場合、キャッシュフローが伝達するものを上回る情報が発生項目には含まれることになる。」
われわれは会計情報の有する豊かな報告構造をもっと信用して良いのだと私は思います。

なお上の”発生主義会計”という言葉は、”時価会計”や”公正価値会計”のアンチテーゼとして用いられています。この点はまた機会を設けて取り上げたいと思います。

【リンク】
2008年2月19日「HD DVD事業の終息について」
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2008_02/pr_j1903.htm

(株)東芝 【東証1部:6502】
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=6502.t&d=c&k=c3&a=v&p=m25,m75,s&t=3m&l=off&z=m&q=c&h=on

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by yasukiyoshi | 2008-03-29 09:45 | 会計
2008年 03月 28日

子会社株式売却による配当原資の確保-ソフトバンクのケース

ソフトバンク ヤフーなど3銘柄売却 配当原資の確保狙う
ソフトバンクは27日、子会社のヤフーなど3銘柄を別のグループ会社に売却したと発表した。ソフトバンク単独の2008年3月期の特別利益に売却益298億円を計上する。
ソフトバンクは持株会社で収入源が限られるため、保有株式のグループない移転によって配当原資を譲渡する狙いとみられる。

(2008年3月28日 日本経済新聞 18面)
【CFOならこう読む】
昨日に引き続き今日も配当のお話です。配当原資を確保するためにグループ内の会社に子会社株式を売却するという行為には問題があります。子会社株式を時価評価し、単体財務諸表の損益に取り込んでいるのと変わらないからです。

しかし問題の本質は別の所にあります。持株会社の配当財源を単体財務諸表の剰余金に基づき算定することにそもそも無理があるのです。連結財務諸表により配当可能利益の計算することを認めるべきです。会社法は連結配当規制適用会社となることを認めていますが、これは連結貸借対照表の株主資本等の額が単体貸借対照表のそれを下回る場合にその差額分だけ分配可能額から控除することを認めるもので、単体で配当原資がないが連結ではある場合に連結ベースで配当することを認めるものではありません。
「アメリカの州会社法には、株主への財産分配の限度額を連結貸借対照表に基づき算定するものがあり、この場合、親会社の個別貸借対照表上欠損があっても、親会社と子会社の連結貸借対照表上に分配可能額があればその限度で親会社が株主に対して財産分配ができることになる」
(「株式会社法 第2版」江頭憲治郎 有斐閣 613頁)
とのことで、日本でも同様の制度が認められるべきであると、私は思います。

【リンク】
2008年3月27日「当社保有株式の全額出資子会社への譲渡に関するお知らせ」
http://www.softbank.co.jp/news/release/2008/080327_0001.html

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by yasukiyoshi | 2008-03-28 07:52 | 配当政策
2008年 03月 27日

自己資本総配分率-株主配分の新しい指標

自己資本総配分率 関西電、株主配分の指標に 自社株買いも算出基準
関西電力は26日、株主配分の指標として「自己資本総配分率」を導入すると発表した。配当総額と自社株の取得予定額を自己資本で割った値で、4%程度を目標とする。同社が具体的な株主配分目標を掲げるのは初めてで、この指標は上場企業の中でも珍しい。株主配分の方針を明確にし、個人株主などの増加につなげる。
(2008年3月27日 日本経済新聞 17面)
【CFOならこう読む】
この自己資本総配分率という指標は一般投資家にとってどのような意味があるのでしょうか? 

個人株主にとって重要なのは、利得を配当で実現するのか(毎年の手取りはいくらか)、キャピタルゲインで実現するのかです。そして企業の配当政策を株主は気に入ってその企業の株式を買うのです。これをファイナンスでは”配当の顧客効果”と言います。

関西電力のように景気変動に左右されにくく、伝統的に安定配当を続けてきた会社の株主は、安定配当を望むのです。減配を自社株買いで調整することを是とする株主は少ないはずです。このいう会社の株主配分の指標は自己資本配当率(DOE)の方が適していると私は思います。

【リンク】
「株主還元方針の策定に関するお知らせ」
http://www.kepco.co.jp/ir/pdf/20080326.pdf

by yasukiyoshi | 2008-03-27 08:13 | 配当政策
2008年 03月 26日

日本の株式市場は効率的か?-出光興産のケース

出光興産株、8日続落 石油製品、営業赤字に
出光興産の株価が急落している。25日の終値は前日比2%安の7420円で、8営業日連続で下落した。原油高騰による収益圧迫が懸念された。原油在庫の資産計上の方法の違いも響き、堅調な株価の同業他社とは対照的な値動きとなった。
出光興産は2008年3月期の連結経常利益を前期比50%減の540億円と見込む。原油高騰の中、競争激化で石油製品への価格転嫁が遅れており、石油製品部門は110億円の営業赤字に転落する見通しだ。
一方、同業他社の25日終値はコスモ石油が2%高、新日鉱ホールディングスが3%
高、新日本石油が前日と同じ。明暗が分かれた理由は「在庫の資産計上の方法の違いが響いた」(みずほ証券の塩田英俊シニアアナリスト)との見方が強い。
新日本石油など3社は総平均法を採用。原油価格が上昇すると、期初の割安な在庫も原価に含めるため会計上の原価が下がり、利益がかさ上げ(在庫評価益)が生じる。一方、出光興産が採用する後入先出法は在庫評価益が発生しない。
石油元売大手4社の今期業績は、在庫評価の影響を除くとそろって実質経常減益の見通し。原油高騰で、各社とも収益実態は厳しさを増している。

(2008年3月26日 日本経済新聞 17面)
【CFOならこう読む】
ファイナンスという学問では市場の効率性を3つのレベルで定義しています。

第1のレベルは現在の証券価格が過去の価格に含まれている情報を反映しているというもので、ウィークフォームでの効率性と言います。
第2のレベルの効率性は、現在の証券価格が過去の価格だけでなはなく、すべての公開情報を反映しているとするもので、これはセミストロングフォームの効率性と言います。
そしてすべての情報が証券価格に反映されているとするレベルをストロングフォームでの効率性と言います。

市場がセミストロングフォームのレベルで効率的であるなら、会計方針の選択が株価に影響を与えることはありません。この点、ブリーリーとマイヤーズはMBAのためのテキスト「コーポレートファイナンス」(日経BP社)の中で次のように説明しています。
「FIFO(先入先出法)によれば、先に在庫として積まれた商品の原価を費用控除する。LIFO(後入先出法)によれば、倉庫に最後に到着した商品の原価を費用控除する。インフレ率が高いときには最初に購入した商品のコストは、通常最後に購入した商品のコストよりも低い。したがって先入先出法によって計算された利益は、後入先出法によって計算された利益よりも大きくなるように見える。

さて、これが、プレゼンテーションの問題にすぎないのであれば、後入先出法から先入先出法に変更することは、何ら実害をもたらすものではないだろう。しかし、内国歳入庁、株主への報告に用いられるのと同じ方法を用いて企業の税金が計算されるべきだと主張している。したがって、後入先出法を用いることにより当面の税金支払いが軽減されている場合には、見かけ上の利益も低くなっていることになる。

 仮に市場が効率的であるならば、投資家は見かけ上の利益の減少をもたらすものであっても、後入先出法への会計の変更を歓迎するだろう。BiddleとLindahlはこの問題を研究し、このとおりのことが実際に起きており、後入先出法への変更は通常以上の株価の上昇をもたらすと結論付けた。株主は、計数の背後を読み、節約された税金の額に焦点を当てているようであった。」

つまり日本の株式市場がセミストロングフォームで効率的であるなら、出光興産の株価は上がり、コスモ石油の株価は下がらないといけないのです。しかしそうはならず、単純に利益の増減によって株価が上下するということなら、少なくともセミストロングフォームのレベルで日本の株式市場は効率的でないということになります。

このことは、日本企業の株価が全く実態を表していない可能性があることを意味しています。これは価値創造の担い手であるCFOにとっては由々しき問題です。しかしただ嘆いているだけでは何も変わりません。市場に理解してもらえるようなわかり易い言葉で、会計情報の持つ意味を伝えていく努力が求められるのだと思います。

【リンク】
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=yuho_pdf&sid=965160

http://www.cosmo-oil.co.jp/ir/financial/valuable/2007/pdf/val2007_05-05.pdf


by yasukiyoshi | 2008-03-26 09:32 | 会計
2008年 03月 25日

ストックオプションの付与株式の手当て-住生活グループのケース

子会社上場は間違いだったと言わざるを得ない。しかし役員や社員には月給やボーナス以外の夢も与えたい。そう考えて、2002年に全グループ企業の主任クラス以上を対象にした、大規模なストックオプション制度を導入した。既存株主にも配慮し、付与する株式は新規発行ではなく、自社株買いで手当てした。
2004年7月までに3回に分けて計19百万株弱の購入権を付与した。対象者数は7500人弱と、グループの日本人正社員の約3分の1に達した。純粋持株会社である住生活グループの株価が上がれば、グループ企業の役員、社員は資格に応じて公平に利益を享受できる。夢と”求心力”の両立が実現した。これも経営のイノベーション(革新)ではないかと思う。

(2008年3月25日 日本経済新聞 44面 私の履歴書)
【CFOならこう読む】
ストックオプションを付与するに際し、付与時に付与株式数相当の自社株買いを行い、行使に備える会社が散見されます。住生活グループの2007年度有報を見ると、2007年3月31日現在の自己株式数が17,466,700株に対し、ストックオプション未行使分は14,897,000株(2007年5月31日現在)となっています。これを見る限り、住生活グループもあらかじめストックオプション付与分を自己株で手当てしておくという”方針”であるように見受けられます。

ところで私にはこの”方針”がよくわからないのです。希薄化を回避するという意図はわかります。しかしそれなら行使時に自己株買いで手当てすれば良いと思うのです。それでは希薄化以外に意図があるとしたらそれは何でしょうか? 将来的な株価上昇を見越し、株価が安いときにあらかじめ手当てをしておく、そんな意図があるように私には思われます。

一言でいうとヘッジ目的です。デルタヘッジということでしょうか? それならアットザマネーのときに何故明らかに過大なデルタヘッジを行う必要があるのでしょうか? 私にはそれが良くわからないのです。自己株取得の方針や配当政策は会社の資金需要に応じて決めれば良いのです。

新規投資の必要がないのであれば株主還元すれば良いし、新規投資等のために資金不足の状態であれば株主還元の必要はありません。ストックオプションと株主還元策ははっきりと区別して考えないと大きな間違いをしでかす可能性があるように私は思うのです。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-03-25 12:24 | 自社株取得
2008年 03月 24日

株主名簿の閲覧を拒否できる場合

対立型総会増加 株主提案に新たな壁 -法務インサイド
6月の株主総会シーズンを前に、株主提案に絡む新たな課題が浮上している。株主名簿を閲覧できず、事業会社を攻める株主にとって大きな足かせとなるケースが増加。
(中略)
「御社の事業領域は当社と競争関係にあり、株主名簿は見せられません」
ADSL大手のイー・アクセスは、アッカ・ネットワークスから届いた一通の文書で、株主への手紙送付断念に追い込まれた。イー・アクセスは今年1月、筆頭株主としてアッカ経営陣刷新を要求。手紙はこの株主提案への支持を訴えるのが目的だった。
アッカ株主の約3割は個人が占め、その動向は株主提案の勝敗を左右しかねない。「アッカ株主が当社の提案を検討できないのは株主利益に反する」(イー・アクセスの千本倖生会長)。同社はインターネット上で支持を呼びかけるしかなく、結局、株主提案を取り下げた。

(2008年3月24日 日本経済新聞 19面)
【CFOならこう読む】
会社法125条3項は、株主及び債権者による株主名簿の閲覧の請求があった場合には、次のいずれにかに該当する場合を除き、これを拒むことができないとしています。
1 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という)がその権利又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
2 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
3 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
4 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。
5 請求者が、過去2年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
この点、江頭憲治郎氏は著書株式会社法の中で次のように説明しています。
「株主・債権者による株主名簿の閲覧・謄写請求が権利の確保・行使に関する調査以外の不当な意図・目的に基づく濫用的なもの(いやがらせとか、ダイレクトメール等への利用を目的とした名簿収集等)であることを立証した場合には、会社は、その請求を拒むことができる。」
そうすると、アッカ・イーアクセスのケースは明らかに共益権の行使を目的としており、”権利の確保・行使に関する調査以外の不当な意図・目的に基づく濫用的なもの”でないにも拘らず、上記会社法125条3項3号の規定により株主名簿の閲覧の請求を拒否されたもので、この規定の存在そのものに疑問があると言わざるを得ません。
新聞記事によると法務省で会社法制定に当たった葉玉弁護士は、「取引先や親密先が株主の場合があり、(拒否するのは)非合理的と言えない」と話しているそうですが、そういった弊害を斟酌する必要があるのは未上場企業で、上場企業の場合には「名閲覧拒否がネックになり、競争的な企業買収の企業買収の妨げになる」(大杉謙一教授)ことの方が問題です。こんな風に考えていくと、やはり上村教授の主張する公開会社法の必要性を一層強く感じるのです。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-03-24 08:30 | M&A
2008年 03月 22日

子会社株式、持分法適用会社株式の減損処理に伴うのれんの償却-三井不動産のケース

三井不の今期 帝国ホテル株下落で特損130億円 取得価格の半分以下 のれん代償却 必要に
三井不動産は21日、33%出資する持分法適用会社の帝国ホテルの株価が大きく下落したため、2008年3月期の連結決算で130億円の特別損失を計上する予定だと発表した。20年償却の予定だった帝国ホテルののれん代130億円の一括償却が必要になった。ただ本業の収益などで吸収し、連結業績予想は修正しなかった。
 三井不動産は昨年10月、1株8750円で帝国ホテル株を33%取得した。帝国ホテル株の21日終値では3970円で、評価損の計上が必要な、取得価格の50%以下に下落している。
単独決算で取得価格と時価との差額として関係会社株式評価損440億円と特別損失に計上。これに伴い会計ルール上、連結決算で取得価格と時価純資産の差額であるのれん代130億円についても一括償却しなければならなくなった。

(2008年3月22日 日本経済新聞 15面)
【CFOならこう読む】
金融商品会計に関する実務指針91項は、市場価格のある有価証券の減損処理について次のように規定しています。

「売買目的有価証券以外の有価証券(子会社株式及び関連会社株式を含む)のうち、市場価格のあるものについて時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、当該時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損失として処理(減損処理)しなければならない。」
 「時価のある有価証券の価額が「著しく下落した」ときとは、必ずしも数値化するできるものではないが、個々の銘柄の有価証券の時価が取得価額に比べて50%程度以上下落した場合には「著しく下落した」ときに該当する。」
三井不動産の単体の財務諸表上、帝国ホテル株式を上記規定に基づき減損処理したものと思われます。

さらに、連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針32項(及び持分法会計に関する実務指針9項)はのれんの会計処理について次のように規定しています。
「親会社の個別財務諸表上、子会社株式(関連会社株式)の簿価に減損処理が行われたことにより、減損処理後の簿価が連結上の子会社の資本の親会社持分額と連結調整勘定未償却残高との合計額を下回った場合、その差額のうち、連結調整勘定未償却残高に達するまでの金額について償却しなければならない」(一部筆者加筆・修正)
この規定に基づき三井不動産は帝国ホテルののれん代130億円を一括償却することになったものと思います。
CFOとしては、子会社株式及び関連会社株式の減損処理を行うと同時に連結財務諸表上のれんの償却をせざるを得ない場合が少なからずあることに留意が必要です。

【リンク】
平成20年3月21日「特別損失の計上に関するお知らせ」三井不動産株式会社
http://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/ir/news/2008/pdf/news_080321.pdf


by yasukiyoshi | 2008-03-22 09:30 | 会計
2008年 03月 21日

武田薬品、米合弁会社を完全子会社化へー続報

武田、米合弁の完全子会社化発表・4月中に会社分割
武田薬品工業は20日、米製薬会社アボット・ラボラトリーズとの合弁会社TAPファーマシューティカル・プロダクツ(イリノイ州)を完全子会社化すると正式発表した。4月中にTAPの会社分割を実施した上で、完全子会社化し、7月に米国の全額出資子会社と合併。4000人弱の営業体制を整備するなど米国の販売、開発機能を一本化し、競争力を強化する。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080321AT1D2001620032008.html
【CFOならこう読む】
一昨日いかにタックスコストを最小化するかがポイントであるというお話しをしました(http://cfonews.exblog.jp/7549073/)。
昨日スキームの概略が発表されました。詳細がわからないので推測するしかないのですが、タックス・フリーのsplit-offの手法を利用するのではないかと思われます(あくまで私の推測です)。split-offとは次のような手法です。

すなわち、TAP社は前立腺癌・子宮内膜症治療剤「ルプロン・デポ」等に関する事業を分割しTAP社の100%子会社を設立します。次にこの子会社株式をアボット社に対して、アボット社の所有するすべてのTAP社株式との交換において分配するといった手法です。

武田とアボット社のTAP社に対する出資比率は50:50なので、split-offを実行するには分割事業の価値も50:50でなければなりません。プレスリリースではこの点、「なお、アボット社および当社にとって均等な価値での会社分割とするための調整については、本会社分割後、別途実施します」としています。

 米国で法人分割を非課税として認める理論の背後に次のような思想があります。
「法人資産が分割された法人のなかに留まる限り、(株主および法人の双方に対して)租税を課すべきないという考え方がある。つまりそれは、どのような組織で法人事業を行うべきかという経営上の選択に、税法が干渉すべきでないということである(課税の中立性)。もし法人分割をすることによって、株主および法人が課税されることになるなら、法人を分割することはそれだけ困難となり、事業に関する最適な資本構成への移行が阻害されることになるからである。」(「企業取引と租税回避」渡辺徹也著 中央経済社 133頁)。

「例えば、資産A、Bと株主a,bからなる法人が、資産A-aおよびB-bの法人に分割された場合、A-bおよびB-aの支配は切断されるという意見がありえるだろう。しかし、アメリカ法では、このような非按分型分割も、投資持分継続性と事業継続性を満たしていると考えられている。」(「企業組織再編成と課税」渡辺徹也著 弘文堂 285頁)
一方わが国ではこのような取引をタックス・フリーで行うことはできません。split-offどころかspin-offすらグループ内再編の要件を満足しないとできないのです(上場会社に50%超保有する支配株主が存在しないのが普通ですから、そうするとグループ内再編の要件を満たしません)。

またそもそも非按分型分割は、法人税法2条12号の11柱書き(分割承継法人の株式が按分的に分配されることを要求する規定)により非適格とされるのです。本件とは直接関係ありませんが、昨今、適格合併により1つになった会社が何らかの事情により2つに分かれたいというニーズが少なからずあるように思います。これを非課税で行うことができないことも大問題だと私は思います。

【リンク】
武田、米合弁の完全子会社化発表・4月中に会社分割
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20080321AT1D2001620032008.html

企業取引と租税回避―租税回避行為への司法上および立法上の対応
渡辺 徹也
450279550X


企業組織再編成と課税 (租税法研究双書)
渡辺 徹也
4335320574



by yasukiyoshi | 2008-03-21 13:39 | M&A
2008年 03月 20日

HOYA・ペンタックスの買収-続報

HOYAは、昨年夏にTOB(株式公開買い付け)で子会社化したペンタックスを本年三月末に吸収合併する。当初はペンタックスを完全子会社化する計画でしたが、合併により経営統合を加速する。ペンタックスの社名は消えるが、ブランドとしては残す。 HOYAは昨年九月末時点でペンタックス株の九〇・八%(議決権ベース)を保有。残りの株主に「合併対価」としてTOB価格と同じ一株七百七十円を払う。
(2007年10月30日 日本経済新聞を加筆・修正)
【CFOならこう読む】
本件、昨年10月18日(http://cfonews.exblog.jp/6644277/)に取り上げてから、フォローの機会を逸していました。今日は休日で、いつもは休載するのですが、いつかやりますといつまでも先延ばしするのも気分が悪いので、今日取り上げることにします。

まずは子会社化したことによるのれんの取扱いについてですが、決算発表の際江間CFOは次のように説明しています。
「ペンタックス㈱との経営統合に絡み、9 月末のペンタックスのバランスシートを時価ベースで連結しています。今後ののれんの償却対象資産および償却期間をご説明しますと、ペンタックス㈱の純資産簿価451 億円、時価純資産の増加額は79 億円で、合計すると530 億円で、このうちHOYAの持分は481 億円(90.62%※)です。差額の49 億円が少数株主持分です。HOYA はTOB でペンタックス株式の90%超を948 億円で購入しましたので、これからHOYA の持分481 億円を引きますと、のれんが467 億円となります。償却対象資産は、のれん467 億円、特許権等を時価評価した135 億円、すでにペンタックス㈱で持っているのれん67 億円があり、合計すると669 億円となります(日本基準)。償却期間は、特許権等の時価評価の分が8 年、その他が10 年です。10 月1日以降、定額償却していきます。(※注:ペンタックス自己株式保有分を含む)」
当初20年で償却と発表していましたが、10年に変更になっています。最近の会計実務(監査法人の指導による部分が大きい)では、10年を超える償却は少なく、そういった傾向に合わせたものと思われます。会計上ののれんの償却費はEPSを悪化させるので、会社としてはできるだけ長い期間で償却したいというのが本音でしょうが、なかなかそれも通らないというのが現実です。私はのれんを償却すること自体が間違いだと考えていますので、のれんの償却期間は10年と20年のどちらが妥当かという議論には正直あまり興味がありません。

10月18日にも書きましたが、連結財務諸表上計上されるのれんは会計固有のもので、税務上認識されません。3月末に予定されている合併によりこののれんが税務上も認識されることになります。

まずこの合併は現金交付型の合併なので、税務上非適格合併となります。非適格合併の場合、HOYAはペンタックスの資産・負債を時価で受け入れることになるので、のれん相当額が資産調整勘定としてHOYAの税務上の資産に計上されます。

一方被合併法人であるペンタックス側ではのれん相当額の譲渡益が計上されるので、時間価値を考慮しなければこの部分で損得はないことになります。但し非適格合併の場合、抱き合わせ株式(つまりHOYA保有のペンタックス株式)に対して時価で合併新株の割当てを受けたものとして計算し、その後自己株式の償却を行ったものとして計算されることに注意が必要です(法人税法施行例①21(3))。

その結果、みなし配当と株式譲渡損益が発生することになるのです。親会社が保有する子会社株式の帳簿価額が子会社の資本金等の額に保有比率を乗じた金額を上回るときは株式譲渡損が発生します。みなし配当は全額益金不算入となるので、株式譲渡損の分だけタックス・メリットが生じることになるのです。適格合併の場合、みなし配当と株式譲渡損の両建て計上はされず、株式譲渡損のタックス。メリットを享受できません。HOYAが現金交付型の吸収合併を選択したのはこれが理由であると思われます。

なお会計上は合併後も連結上ののれん未償却残高相当額が個別財務諸表上に計上されることになります(企業会計基準適用指針第10号 207項(1))。但し償却期間は税務上5年間の均等償却(法人税法62の8④⑤)であるのに対し、会計上は20年内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する(企業結合会計基準三2.(4))点が異なります。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-03-20 11:49 | M&A