吉永康樹の CFOのための読みほぐしニュース

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2008年 11月 25日

資本政策詳解-シイエム・シイ

【CFOならこう読む】
シイエム・シイの株式上場の概要は次の通りです。

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シイエム・シイは、販売促進のための従業員研修やイベント運営、取扱説明書作成などのマーケティング事業と、システム開発事業を展開している昭和37年設立の会社です。名古屋に本社があり、トヨタとの取引が全体の41.4%を占めています。

公募価額は未定ですが、仮条件の下限1900円を仮定すると、2009年9月期見込みEPSが362.17円なのでPER5.2倍という水準での株式公開となります。

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シイエム・シイの主な資本政策は (表2)の通りです。

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創業者である林幹治氏はすでに社長を降り、代表権のない会長となっています。2006年9月に現社長である龍山真澄氏等を割当先とする第三者割当増資を行っています。また、2006年10月1日付で一部門を新設分割により子会社化し、株式会社CMCSolutions設立しています(同社の2007年9月期売上実績19億2041万円)

(表3)はシイエム・シイの株主構成です。

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株主名簿の上位に、ずらりと親族が並ぶ典型的な相続銘柄です。龍山社長の持株比率は潜在ベースで8%にすぎず、創業家の顔色を伺いながらの経営となりそうです。

シイエム・シイは、過去ジャスダックが山のように上場させてきたタイプの会社で、ジャスダックは本当に魅力ある市場に生まれ変わる気があるのか疑問に思います。

従業員のインセンティブは従業員持株会によっており、11.74%とかなり大きな持分を有しています。

【リンク】
株式会社 シイエム・シイ 企業概要
http://www.cmc.co.jp/02/02.html


# by yasukiyoshi | 2008-11-25 12:24
2008年 11月 22日

フジタ上場廃止へ

フジタ信用不安回避へ先手
準大手ゼネコンのフジタへの親会社によるTOBが17日に終了し、東京証券取引所第二部を上場廃止となる。支援企業による上場廃止という異例の事態の背景には、優先株の普通株への転換による一株利益の希薄化や不動産市況悪化を懸念した株安への危機感がある。このまま放置すれば信用不安を招くと判断。株式市場からの退場を自ら選択した。
(日本経済新聞2008年11月22日14面)
【CFOならこう読む】
「フジタは旧フジタの建設部門が分離して2002年10月に設立。2005年9月にフジタHDを引受先に第三者割当増資を実施。普通株と優先株の発行で410億円調達した結果、フジタHDはフジタの発行済み普通株の44.8%と優先株すべてを保有する。フジタが憂慮するのは約889万株にのぼる優先株の存在。すべてを転換すると普通株数は約3億7700万株と現在の約12倍に膨らむ。一株利益の希薄化や需給悪化から「短期的に株価が下落する恐れがある」(上田社長)。
(前掲紙)
もとをたどると2002年10月の分割スキームがまずかったのかもしれません。

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優良事業と思われた建設事業を分離するに当たり、分割会社が過半数の株式を保有するスキームを選択したため(みなし配当を回避するためと言われています)、その後の資本戦略に制約が生じるであろうことが、当時から指摘されていました。

その後、2005年9月にGS系投資会社フジタHDから410億円の出資を受ける際に、90%の無償減資、10:1の株式併合といった処理をせざるをないことになってしまいました。

そして今回の上場廃止です。2002年10月のときに中途半端な処理をしたばかりに、無駄に遠回りしてしまったと私には思えます。

【リンク】
平成17年6月8日「「新中期経営計画」の一部修正とスポンサーの決定について」株式会社フジタ
http://www.c-direct.ne.jp/public/japanese/uj/pdf/10101806/00034423.pdf

平成20年9月25日「非上場の親会社である有限会社フジタ・ホールディングスによる当社株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」株式会社フジタ
http://www.c-direct.ne.jp/public/japanese/uj/pdf/10101806/20080925160442.pdf

平成20年11月18日「非上場の親会社である有限会社フジタ・ホールディングスによる当社株券等に対する公開買付けの結果に関するお知らせ」株式会社フジタ
http://www.c-direct.ne.jp/public/japanese/uj/pdf/10101806/20081118163583.pdf


# by yasukiyoshi | 2008-11-22 11:22 | M&A
2008年 11月 21日

海外子会社の配当課税

企業の海外利益還流策、政府税調案に明記へ 来年度税制改正
政府税制調査会(首相の諮問機関)の2009年度税制改正答申の原案が20日分かった。日本企業が海外で稼いだ利益を国内に戻しやすくする税制の創設などを盛り込む。消費税については、社会保障の財源として引き上げの必要性を明記した昨年の答申をほぼ踏襲。政府・与党が消費税を含めた税制改革に向けた「中期プログラム」を作成する方針を決めたことを前向きに評価する。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20081121AT3S2002A20112008.html
【CFOならこう読む】
この問題、今日の新聞の17面でもとりあげられています。
「現在は税率20%の国で稼いだ利益を日本に戻すと、日本の税率(約40%)との差の20%を追加で課税される。海外に置いておけば20%で済むので、稼いだ利益を海外の再投資に回すのは自然な流れだ。積み上がった海外利益は2006年度末で17兆円に上る。」
(日本経済新聞2008年11月21日17面)
海外の未分配利益にかかる繰延税金負債の金額が大きい企業は次の通りです。

海外子会社の配当課税_e0120653_1114263.jpg


この繰延税金負債の金額は、有価証券報告書の財務諸表の注記、「繰延税金資産および負債の主な内訳」に記載があります(例えば、トヨタの2007年度有価証券報告書108ページを参照してください)。

具体例で説明しましょう。海外子会社の利益80億円を日本に還流させると、追加的に20億円の課税があるとすると、連結財務諸表上次の通り処理されます。
法人税等調整額(P/L) 20 / 繰延税金負債(B/S) 20
海外配当子会社の配当が非課税になった場合、税金は支払われないので、繰延税金負債を取り崩す必要があります。たまった繰延税金負債が100億円あるなら、これが次のように処理されます。
繰延税金負債(B/S) 100 / 法人税等調整額(P/L) 100
新聞記事に書かれている、「損益計算書の法人税等調整の項目でプラスに作用するだろう」(大手監査法人)とは、このことを言っているのです。

そうなると、その分だけ株主価値が増加するので株価の上昇要因となります。また将来に渡りEPSやROEが押し上げられることになります。この税制改正は、今まで海外展開することを躊躇していた会社の背中を押すことになるかもしれません。

一方、日本の空洞化がもう一段推し進められることによる、国内経済へのマイナスの影響も危惧されるところです。

【リンク】
「2007年度有価証券報告書 第5 【経理の状況】」トヨタ自動車株式会社
http://www.toyota.co.jp/jp/ir/library/negotiable/2008_3/finance.pdf


# by yasukiyoshi | 2008-11-21 11:02 | 税制
2008年 11月 20日

製作委員会方式によるアニメ制作

委員会方式で取り分減る 版権確保模索も
アニメやゲーム、漫画。日本の文化が世界で存在感を高めている。だが追い風のわりに関連する上場企業の業績は伸び悩んでいるのが実情だ。クール・ジャパンの憂鬱ー構造を探ってみた。
(日本経済新聞2008年11月20日 14面 クール・ジャパンの憂鬱)
【CFOならこう読む】
記事はコンテンツ制作会社の業績が伸びないひとつの理由に「製作委員会方式」を挙げ、次のように指摘しています。

「従来、アニメはテレビ局や玩具メーカーの資金で制作され、制作会社も多いときには権利の半分以上を持った。ところが広がる「委員会」方式のもと、現在は広告代理店や出版社などへと出資企業の幅が拡大。制作会社の出資力の制約などもあって、持っている権利は、全体の10%前後に落ちているとみられる。」
クール・ジャパンが世界でどれだけ評価されようと、現場が疲弊するような構造では発展が望めません。メジャースタジオ以外の米国の映画製作の場合、「ネガティブピックアップ」により資金調達をするのが一般的です。
「インディペンデント映画の製作者たちはスタジオから100%資金調達を受けないので、自分達で資金調達します。北米での配給権の「ネガティブピックアップ」とメジャーな地域の「プリセール」の組み合わせで、配給契約を担保に金融機関から借り入れして、完成保証ボンドをつけるのが従来の形です。」
(「コンテンツ・ファイナンス」(松田政行著 日刊工業社)
ネガティブピックアップとは次のようなものです。
「ネガティブピックアップとは、完成保証による完成リスクのヘッジと、MG(MinimumGuarantee)による興行リスクのヘッジを組み合わせてデットファイナンスを行う一種のストラクチャードファイナンスであり、欧米ではスタジオに属さないインディペンデントプロデューサーによる映画製作資金の調達において用いられている。なお、MGとは、配給会社等の販売会社が映画製作者に支払う分配金に最低保証額を設定するものであり、映画製作者の観点からはMGの範囲において興行リスクをヘッジする機能がある。また、配給契約の締結時においてMGに相当する金額が配給会社等から映画製作者に支払われるケースもあるが、ここで想定するのは原則として映画の完成、引渡しを条件として、MGに相当する金額が支払われるケースである。
典型的なネガティブピックアップでは、インディペンデントプロデューサーは映画の完成を前提とした配給契約を配給会社と締結する。契約において配給会社は、完成された映画の引渡時に、プロデューサーに対する映画の配給からの分配金として一定の金額を前払いすることが定められている。この前払い額がMGに相当するが、欧米では映画の完成に必要なコストとして見積られた金額がMGとして設定されることが多い。
そしてプロデューサーはこのような配給契約を担保として、銀行やその他の債権者から資金調達し、映画を製作することが可能となる。プロデューサーに対する債権は配給契約において定められた前払い金によって返済される。」  (「日本型映画完成保証に関する調査研究報告書」 独立行政法人経済産業研究所)
つまりネガティブピックアップの前提として完成保証会社から完成保証を受けることが不可欠なのです。日本では、完成保証の法的位置付けが不明確であること、完成保証会社の役割は、単なる保証を行うだけでなく、予算コントロール、製作の引継ぎ等多岐に渡るため、適当な担い手が見つからない、といった理由から完成保証をつけるという実務が定着していません。

私は、前職が映像ディレクターということもあり、人一倍この分野には関心があるのですが、制作サイドに正当な報酬が落ちるスキームを構築するのに苦慮している、というのが実情です。

【リンク】
図解コンテンツ・ファイナンス―「著作権信託」で資金調達が変わる
松田 政行

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# by yasukiyoshi | 2008-11-20 10:10 | 資金調達
2008年 11月 19日

スキーム・オブ・アレンジメント キリンの買収提案 豪コカコーラ(CCA)拒否

豪コカ・コーラ、キリンの買収提案拒否 条件見直し検討へ
【シドニー=高佐知宏】オーストラリアの飲料大手コカ・コーラ・アマティル(CCA)はキリンホールディングス傘下の豪ビール大手ライオンネイサンからの買収提案を拒否した。買収額の約80億豪ドル(約4985億円)は「当社の価値を反映していない」(CCA)のが理由。キリンHDは「理解を得られるよう交渉を続ける」として今後、買収金額引き上げなど条件見直しの検討に入るとみられる。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1D1807Z%2018112008&g=S1&d=20081118
【CFOならこう読む】
キリンの買収価額が「当社の価値を反映していない」(CCA)という理由で、CCA取締役会は買収交渉打ち切りを決めました。14日終値に対し31%のプレミアムを付した買収価格では安すぎる、ということでしょう。

今回の買収はスキーム・オブ・アレンジメントによることを、キリンHDはプレスリリースの中で公表しています。

スキーム・オブ・アレンジメントとは、
「英国法上の買収手続き。1)買収対象会社の取締役会決議を経たうえで、被買収企業の株主総会で参加株主の過半数かつ議決権で七五%の賛成による承認(2)英国裁判所の審問による承認(3)関連地域の競争法当局による承認――が必要。」
(日本経済新聞2007年3月9日)
日本板硝子の英ピルキントン買収、JTの英ガラハー買収の際にも同手続きが取られました。

つまり取締役会がYESと言わないかぎり、事は進まないということです。

ただし日本のどこかの会社のように濫用的買収者云々ということではなく、価格が問題だということなので、勝負はバリュエーションのコンテストで決します。

【リンク】
 なし

# by yasukiyoshi | 2008-11-19 11:11 | M&A