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2008年 12月 29日

ディール・オブ・ザ・イヤー エクイティ部門

ベスト1位はヤマダ電機が2月に発行を決めた1500億円のCB。調達資金の一部を自社株買いにあてる「リキャップCB」と呼ばれる新戦略を市場は評価した。
(日経ヴェリタス2008年12月28日 2面)
【CFOならこう読む】
「CBはあくまでも負債と位置付けている。転換を前提とせず、手元資金で償還する方針だ。」(ヤマダ電機 岡本潤取締役兼執行役員専務 前掲紙)
負債と位置付けたCB発行がエクイティファイナンス部門のベストと評価されること自体、今年のエクイティファイナンスの低調さを象徴しています。
「山田昇・現会長の指示も希薄化を起こさず、金利を限りなくゼロにしろというものだった。」(岡本専務 前掲紙)
リキャップというより、”金利ゼロ&希薄化回避”の条件をクリアするための解がリキャップCBであったということだったのですね。
私のブログでは2008年2月27日にこのディールを取り上げました(http://cfonews.exblog.jp/7371460)。

そこで私は次のような指摘をしています。
「それからもう一つ、何故CBかという点です。資本構成変更が本件の目的なら、エクィティ系のファイナンス手法であるCBを利用するのは矛盾しています。つまりCBによってファイナンスしたい理由があるのです。それは恐らくゼロクーポンのメリットを享受するというところにあるのだと思います(会計上も社債利息を計上しないことができます)。」
リキャップというのは資本コスト引き下げのために行われる、資本構成の変更のことですが、そのためには負債で資金調達し、この資金で自己株取得をする必要があります。
このCBは最適資本構成を指向するものではなく、ゼロコストのためのCB発行+CBの希薄化効果を排除するための自己株取得=(結果として)リキャップCBであったということです。

それにしても山田会長の「希薄化を起こさず、金利を限りなくゼロにしろ」という指示は、単純明快で何とも言えず迫力を感じますね。

【リンク】
2008年2月26日「2013年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債及び2015年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行について」株式会社ヤマダ電機
http://www.yamada-denki.jp/ir/pdf/press/2008/news0226_yuro.pdf

2008年2月26日「自己株式の取得に関するお知らせ(会社法第165条第2項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得)」株式会社ヤマダ電機
http://www.yamada-denki.jp/ir/pdf/press/2008/news0226_kabu1.pdf


by yasukiyoshi | 2008-12-29 08:39 | 最適資本構成
2008年 09月 04日

自社株買いによる株高効果

実施率上昇、株高効果ます 金庫株、新たな説明責任を
株式相場の数少ない好材料として自社株買いが脚光を浴びている。中でも投資情報として関心が高いのが「自社株取得枠」だ。会社が自ら設定した取得枠のうち、どの程度を実行したかを表す実施率が年々上昇。開示情報としての信頼度向上とともに、株価への影響も大きくなっている。
(日本経済新聞2008年9月4日 12面 自社株買いの今 上)
【CFOならこう読む】
記事では、自社株買いと株高効果との関連について次のように説明しています。
「野村證券金融経済研究所が取得枠設定を発表した企業の株価をTOPIX対比で調べたところ、2007年度上期までの株高効果は発表日からせいぜい2営業日、株価上昇率も1-2%だった。ところが2007年度下期以降は株高効果が20日程度持続しているうえ、上昇率も4%上回る。」
理論的には自社株買いは株主価値に中立です。しかし「低迷する株価に刺激を与えたい」という動機で自社株買いを行う会社は少なくありません。株価に影響を与えるとしたらそれはどのよう理由によるのでしょうか?

第一に、経営者が、株価が企業のファンダメンタルズ価値を下回っていることを確信していて、それを市場にアピールすることにより株価に影響を与えることがあります。これはシグナリング効果と呼ばれます。

第二に、企業にキャッシュフローが潤沢で、当面資本コストを上回るような投資案件もないことから、株価にこれが織り込まれていないときに、これを自社株買いまたは増配により株主に還元することにより株価に反映させることができる場合があります。

第三に、社債等負債により資金調達し、同時に自己株買いを実行し、負債比率を上昇させることにより資本コストを引き下げることができるなら、株主価値は上昇します。

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2007年度下半期からサブプライムの影響もあり、株価は大きく下げています。したがって、ファンダメンタルズに比し株価が低い会社が相対的に増加していると考えられます。

また、キャッシュの効率的利用が求められるようになったのも最近のことです。更に、昨日もお話ししたように、バブル崩壊後借金返済に汲々としてきた日本企業は、ここにきてようやく過剰債務が解消され、資本コストを引き下げるために負債比率を上昇させる財務政策を選択し得る状況になりつつあります。

つまり上で説明した3つの要因が複合的に作用して、自社株買いが株価上昇を促す能性があるのです。
そういう意味で、今は自社株買いの好機であると言えそうです。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-09-04 07:52 | 自社株取得
2008年 09月 03日

社債の発行残高増加

上場企業の社債の発行残高が増えている。2008年6月末時点で、貸借対照表に記載された残高は35兆2039億円と3月末に比べ2.6%増え、2・4半期連続の増加となった。米国発の金融市場の動揺が続く中、M&Aなど成長投資や株主配分に活用する資金を、早めに固定金利で調達しようと動いている。
(日本経済新聞2008年9月3日 17面)
【CFOならこう読む】
リチャード・クー氏が「日本経済を襲う2つの波」で指摘するように、日本はバランスシート不況から脱しようとしています。
e0120653_7474929.jpgバブル崩壊後借金返済に汲々としてきた日本企業は、ここにきて過剰債務が解消され、新たにお金を借りて新規投資に向かう気持ちになりつつあるのです。

CFOの重要な仕事としてディズニーの元CFOゲイリー・ウィルソンはHBR誌のインタビューの中で次のように語っています。
「戦略的なCFOが重視する点は2つある。第1は、会社の戦略目標を達成するために、資金を効率的に投資すること。第2は、最適の資本コストで資金を調達すること。」
バブル前は銀行がコーポレートガバナンスの中心にいて、このようなことを考える必要はなく、バブル後は借金を返すことが至上命題でしたから、最適資本構成は無借金であることでした。そういう意味で、ようやくCFOがCFOとしての本来の仕事が出来る時代が初めてやって来ようとしています。

発行体格付を落としても、資本コストの点からSBによる資金調達を選択したエーザイのケースはそのことを象徴しているように私には思えます。

【リンク】
日本経済を襲う二つの波―サブプライム危機とグローバリゼーションの行方
リチャード・クー

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by yasukiyoshi | 2008-09-03 09:56 | 資金調達
2008年 06月 03日

東芝のDEレシオ

フリーキャッシュフロー 東芝、今期500億円の黒字
東芝の2009年3月期のフリーキャッシュフローは500億円程度の黒字になる見通しだ。前期は756億円の赤字だった。在庫や売掛債権の圧縮などで現金を捻出する。半導体や原子力発電所などを中心に設備投資を増やすが、投資額を上回る現金を稼いで事業拡大と財務改善を両立する。今後3年間でFCFは3000億円の黒字を目標にする。
(日本経済新聞 2008年6月3日 15面)
【CFOならこう読む】
東芝の2010年度の経営目標を次のように設定しています。

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D/Eレシオが2008年度3月期の1.23倍から2010年度には1倍以下に低下させる計画になっています。これに向けて、東芝は4月からキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)と呼ぶキャッシュフローを生み出す活動を全社で始めています。5月8日に行われた経営方針説明会でも、今後のフリーキャッシュフローの計画について会社は次のように説明しています。
「戦略投資を継続しながらキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)改善の更なる加速などにより、投資キャッシュフローを上回る営業キャッシュフローを創出し、3年間累計で今後+3,000億円のフリーキャッシュフローとなる計画を立てています。」
具体的には、
・事業部門ごとに在庫や売掛債権の管理を徹底する
・期末に集中しがちな債権の回収時期を期中に平準化したり回収期間を短くしたりするほか、前受金を増やすように顧客と交渉する
・債権流動化の規模を拡大する
・トヨタのジャストインタイム方式を火力発電所など重機部門の工場にも導入する
・高額な資材を必要以上に持たないようにして棚卸資産を圧縮する
といった施策を打つとのことです。

最適資本構成がD/Eレシオ100%であるとの財務的な判断があるかどうかは不明です。資本コスト(WACC)との関係でもう少し突っ込んだ説明が欲しいところです。

なお、上記新聞記事はD/Eレシオを有利子負債に対する自己資本の倍率、と説明していますが、自己資本に対する有利子負債の比率(有利子負債/自己資本)の誤りです。

【リンク】
2008年5月8日「2008年度経営方針説明会」株式会社東芝
http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/library/pr/pdf/tpr20080508.pdf


by yasukiyoshi | 2008-06-03 09:02 | 最適資本構成
2008年 05月 23日

キリンHD 負債枠4000億円拡大

社内基準見直し 買収資金など確保狙う
キリンHDは買収資金などを機動的に確保するため、有利子負債を現在より最大で4000億円程度増やせるよう社内の財務基準を見直す。同社は2007年12月期に協和発酵、豪乳業大手のナショナルフーズを相次いで買収した。国内のビール市場が縮小傾向にあるなか、海外事業の強化や多角化の推進に向け、今後も積極的にM&Aを進める狙いがある。
(日本経済新聞 2008年5月23日 17面)
【CFOならこう読む】
キリンHDは、2006-2009の中期経営計画で、
①M&Aに充てる資金のめどを3000億円
②DEレシオ(有利子負債/自己資本)0.5倍程度
に設定しています。

しかし買収金額は合計3700億円と、3000億円の投資額をすでに上回っており、またDEレシオも0.58倍まで上昇しています。このためDEレシオの目標値を1倍程度に見直すとのことです。これにより新たに4000億円近く有利子負債増額の余地が生まれます。

DEレシオを基準値として設定しているのか、目標値として設定しているのかは大きく違います。しかし上記記事でもその区別が曖昧になっているように一般に両者の違いは意識されません。最適資本構成を睨みながら、中期計画の中でDEレシオを目標値として設定する、財務先進企業は日本ではそれほど多くないのです。キリンHDも、戦略投資の制約条件として、DEレシオの基準値を設定している程度の話で、DEレシオ1倍が最適資本構成であると考えているわけではないのでしょう。

このことは、吉元CFOの「状況次第で様々な調達手段を検討するが、DEレシオが一時的に1倍程度まで上昇できるのは許容できる」という発言からも明らかです。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-05-23 08:41 | 資金調達
2008年 02月 27日

リキャップCBーヤマダ電機のケース

CB1500億円 自社株買い700億円 ヤマダ電、同時に実施
ヤマダ電機は26日、ユーロ市場で新株予約権付社債(転換社債=CB)を最大で1500億円発行する一方、700億円の自社株買いをすると発表した。CB発行で得た資金を自社株買いに充て一株利益を高めつつ資本効率の改善につなげる狙い。CB発行と自社株買いを同時に行う手法は米の有力企業の間で急速に普及しつつある。日本ではヤマダ電機が初めて。
(2008年2月27日 日本経済新聞 19面)

【CFOならこう読む】
CBによって調達する1500億円の資金使途を会社は次のように説明しています。
【調達資金の使途】
本資金調達による発行手取金(グリーンシューオプション分を含む。)の資金使途は以下を予定しています。

① 設備投資資金として調達した短期借入金の返済に約800 億円を充当する予定です。
② 自己株式取得資金に約700 億円を充当する予定です。本新株予約権付社債の払込日以前に自己株式を取得した場合、かかる取得資金として調達したブリッジローンの返済に充当する可能性があります。
ヤマダ電機の平成20年3月期第3四半期時点の自己資本比率は42.3%でした。これが700億円の自己株取得により33.7%まで下がることになります。D/E比率で見ると1.36から1.97へ上昇します。最近出版された「日本企業のコーポレートファイナンス」(砂川伸幸、川北英隆、杉浦秀徳著 日本経済新聞出版社)によると、格付けは1ノッチ以上ダウンすることになります。節税効果がこの格下げによる資本コスト上昇の影響を上回れば、負債による自己株取得は合理的と言えます。

ただし本件は上の説明のような教科書的な財務戦略を志向したものではない可能性もあります。家電業界は今後M&Aによる再編が予想され、ヤマダ電機はその中心的なプレイヤーと目されています。TOBをかけるにはキャッシュが必要です。そのキャッシュを今回CBで調達したというのが本当の所かもしれません。それをキャッシュのままで持っていると業界他者の警戒心を必要以上にあおり、今後のM&A戦略に影響をあたえることにもなりかねないので、その意図を隠すために一旦金庫株で持つというのは十分考えられるところだと思います。

それからもう一つ、何故CBかという点です。資本構成変更が本件の目的なら、エクィティ系のファイナンス手法であるCBを利用するのは矛盾しています。つまりCBによってファイナンスしたい理由があるのです。それは恐らくゼロクーポンのメリットを享受するというところにあるのだと思います(会計上も社債利息を計上しないことができます)。

そして次のように転換可能性の低い商品設計にすることでエクィティ系の性格を相当程度緩和しているのです。
「時価を大幅に上回る水準に転換価額を設定することで、発行後の一株当たり利益の希薄化を極力抑制するとともに、転換制限条項(※)の付与により、株式への転換可能性を抑制することで、既存株主に配慮した負債性の高い商品性としております。

※転換制限条項について
株価が転換価額の一定水準を一定期間上回らない限り、投資家が新株予約権を行使できない条項をいいます。本件においては原則として、前四半期の最終30連続取引日のうちいずれかの20取引日において、当社普通株式の終値が転換価額の125%を超えた場合に限って、投資家は新株予約権を行使することができます。ただし、償還期限の6ヶ月前の日以降、いつでも新株予約権の行使が可能となります。」
(2008年2月26日プレスリリース)

【リンク】
平成20年1月31日「平成20年3月期 第3四半期財務・業績の概況」株式会社ヤマダ電機
http://www.yamada-denki.jp/ir/pdf/kessan/2008/080131.pdf

2008年2月26日「2013年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債及び2015年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行について」株式会社ヤマダ電機
http://www.yamada-denki.jp/ir/pdf/press/2008/news0226_yuro.pdf

2008年2月26日「自己株式の取得に関するお知らせ(会社法第165条第2項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得)」株式会社ヤマダ電機
http://www.yamada-denki.jp/ir/pdf/press/2008/news0226_kabu1.pdf

日本企業のコーポレートファイナンス
砂川 伸幸
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by yasukiyoshi | 2008-02-27 12:57 | 最適資本構成
2007年 11月 27日

キャッシュリッチ企業による普通社債発行―HOYA、堀場製作所のケース

SB発行企業、株価を意識 脱・バリュートラップ目指す
株式相場が不安定な動きを続ける中、株式市場では上場企業がエクイティ・ファイナンス(新株発行を伴う資金調達)を避けて、国内普通社債(SB)による資金調達による資金調達に動いている。国内の公募SBの発行額は 既に昨年を大幅に上回った。これは単なる金利低下を背景とした負債シフトと片づけたくはない。割安株を見つける意外なヒントがあるかもしれない。
(日経金融新聞 20面 スクランブル)

【CFOならこう読む】
この記事は、負債比率上昇による資本コスト低下が、株価を上昇させる可能性があることについて書いています。ファイナンス理論的に言うと、倒産コストとエージェンシーコストを無視するなら、負債比率上昇により支払利息の節税効果が働くので、その分理論株価が上昇します。

記事はHOYAと堀場製作所について次のように書いています。
9月に総額1500億円のSBを発行し、ペンタックスの買収資金に充てたHOYA。HOYAにとって初のSB発行だった。実はHOYAは2007年3月期末時点で1200億円を超える現預金を抱えていた。この現金を充てずに、あえてSBで調達した意図は何か。「07年3月末時点で80%を超えていた連結ベースの自己資本比率を下げる絶好の機会」(広報担当者)とみたからだ。堀場製作所は約6年ぶりのSBを7月に発行した。総資産に占める現預金の比率は前期末時点で約11%超と潤沢だった。やはり狙いは06年12月期末で56%に達する「自己資本比率の引き下げ」(財務担当者)だった。
要するに両社は、負債比率上昇のために潤沢に保有するキャッシュを使用せず、普通社債により資金調達を行ったということを言っているのですが、この記事は明らかな誤謬に基づいて書かれています。この誤謬は企業価値評価を行う場合にもしばしば見られるので注意が必要です。どこが間違っているのでしょうか?

加重平均資本コストはネットデットと株主資本の構成比に基づき計算されます。ネットデット=有利子負債-余剰となっている現預金なので、有利子負債を増やしても現預金を減らしてもネットデットに影響はないのです。

実際HOYAと堀場製作所の過去3ヶ月の株価の推移を見ても両社に共通の傾向は見られません。
(HOYAの株価上昇はペンタックスの買収効果によるものと思われます。)

チャート
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チャート
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つまり当面資本コストを上回る投資機会がないのであれば、自己株取得または配当を行うべきなのです。これにより株主資本が圧縮されネットデットの比率が上昇するので資本コストを引き下げることができるのです。

日経の私の履歴書を今月は野村證券の田淵節也さんが書いておられますが、11月25日掲載分に現野村ホールディングス社長古賀信行氏の次のような言葉が紹介されていました。
「これからの経営は、利益は配当で吐き出し、利益が出なくなったら社長が替わればいいんじゃないか」
最適資本構成という観点からも非常に的を得ていると私は思います。

【リンク】
平成19年10月29日「平成20年3月期 第2四半期財務・業績の概況」HOYA株式会社
http://www.hoya.co.jp/data/current/briefingsubobj-235-pdffile.pdf

平成19年11月13日「平成 19年 12月期 第3四半期財務・業績の概況」株式会社 堀場製作所
http://www.jp.horiba.com/ir/pdf/2007111301.pdf

by yasukiyoshi | 2007-11-27 10:47 | 最適資本構成
2007年 11月 16日

自社株買いによるEVAの改善―花王のケース

花王、投下資本圧縮を加速 自社株買い最大300億円 EVA低下に歯止め
花王が資本効率の向上に再び動き出した。化粧品分野への先行投資や原材料高で収益が圧縮されるなか、自社株買いによって余剰資金を減らし、経営指標とするEVA(経済付加価値)の低下に歯止めを掛ける。EVAは2008年3月期には前期より悪化するが、2009年3月期から上昇トレンドへの回復を目指す。
(日経金融新聞2007年11月15日7面)

【CFOならこう読む】
EVAとは税引後営業利益から投下資本コスト(有利子負債と株主資本コストの合計)を差し引いて算出される金額で、これがプラスなら、投資家の期待リターンを上回る付加価値を生み出したことになります。EVAを増やすには、
① 税引後営業利益を増やす
② EVAがプラスとなる新規投資を行う
③ EVAがマイナスとなっている既存投資案件から撤退する
④ 資本コスト率を引き下げる

の4つの方法があります。

新聞記事によると300億円の自社株買いにより投下資本が圧縮され、EVAが20億円程度改善するとのことですが、この考え方は間違っていると私は思います。

20億円は、300億円に花王の加重平均資本コスト7%を掛けて計算されたものと思われますが、自社株買いをしても投下資本総額は減少しません。投下資本=ネットデット(有利子負債-余剰資金)+株主資本なので、自社株買いの原資が余剰資金でも借入でもネットデットは300億円増加するのです。

投下資本の圧縮によるEVAの改善は上で説明した③のルートを通じて行われます。これには運転資本の圧縮も含まれます。単に自社株買いをしても③の改善効果が生まれないのは当然といえます。

それでは自社株買いによるEVAの改善効果は全くないのかというとそんなことはありません。上の④の資本コストに影響してくるのです。簡単に言うと投下資本の総額が変わらなくても、その構成が資本コストの高い株主資本が減り資本コストの低い有利子負債が増加するというように変化すれば加重平均資本コストが低下するのです。

ただし花王の株式時価総額は1兆7000億円もあるので300億円程度の自社株買いでは加重平均資本コスト率の低減効果は限定的であると思います。

【花王】
「中間連結財務諸表」花王株式会社 平成20年3月中間決算短信
http://www.kao.co.jp/corp/ir/i03/pdfs/2007s/200709_06fs.pdf


by yasukiyoshi | 2007-11-16 09:07 | 最適資本構成
2007年 10月 11日

点検自社株買い 高まる機動性

自社株買いが活発だ。株主への利益配分手段として定着し、実施額は今年も過去最高を更新するとみられる。夏の相場急落時には株価のテコ入れ策としても注目を集めた。解禁から10年余り。企業は自社株買いをうまく使いこなせるようになったのか。点検する。
(2007年10月11日 日経新聞17面)

【CFOならこう読む】
理論的には自社株買いは株主価値に中立です。しかしイオンの豊島専務が言うように「低迷する株価に刺激を与えたい」という動機で自社株買いを行う会社は少なくありません。株価に影響を与えるとしたらそれはどのよう理由によるのでしょうか?

第一に、経営者が、株価が企業のファンダメンタルズ価値を下回っていることを確信していて、それを市場にアピールすることにより株価に影響を与えることがあります。これはシグナリング効果と呼ばれます。

第二に、企業にキャッシュフローが潤沢で、当面資本コストを上回るような投資案件もないことから、株価にこれが織り込まれていないときに、これを自社株買いまたは増配により株主に還元することにより株価に反映させることができる場合があります。

第三に、社債等負債により資金調達し、同時に自己株買いを実行し、負債比率を上昇させることにより資本コストを引き下げることができるなら、株主価値は上昇します。

記事によると、「米住宅ローン問題で相場が急落した夏場に自社株買いは一気に増加。8、9月の買い入れ額は1兆3,500億円に達した。4-9月累計は約2兆6千億円と半期で過去最高。一方、4-8月に公募増資・売り出しと新規公開の合計額は約4,800億円にとどまった。」とのことで、サブプライム問題の影響から長期金利が大きく

低下すると同時に、上場会社の株価がいっせいに大きく下げた場面で上の第一と第三の効果を狙って自社株買いが行われたのでしょう。

また、敵対的買収の脅威を感じているキャッシュリッチな会社が大きく株主還元策を打ち出す必要から、自社株買いに踏み切っている会社も相当数あるものと思います。いずれにしてもバブル以後、余剰設備の削減と資産効率の向上に力を注ぐと共に、負債の削減を徹底して行うことによりバランスシートの圧縮を図ってきた日本企業の資本政策が大きな転換点を迎えていることは間違いないと思います。

財務省が公表している法人企業統計によると自己資本比率は1995年度には19%であったのが、2006年は34%と大きく改善されています。自社株買いの増加は、バランスシート調整が完了したことを示しています。

余談ですが、記事にあるように「消却せず金庫株で持つ企業が多いことに不満がくすぶる」「いつ市場に出てくるか不透明。まず消却すべき」との意見がありますが、会社法上もファイナンス理論上も自社株買いと公募増資は全く同じ取扱いになっており、このような意見は、誤謬に基づくものであるので、CFOとしては聞き流して構わないでしょう。

【リンク】
法人企業統計調査(財務総合政策研究所)
http://www.mof.go.jp/1c002.htm


by yasukiyoshi | 2007-10-11 08:22 | 自社株取得
2007年 10月 04日

キヤノン、今期16.7% ROE最高水準に

キヤノンが資本政策を大きく見直している。2007年12月期に初めて自社株買いを始め、すでに4500億円を買い付けた。
業績好調で手元資金が積み上がる中、株主への利益配分を増やし資本効率を改善する。今期の自己資本利益率(ROE)は16.7%と前期比0.4ポイント上昇し、過去最高だった2004年12月期と同水準になる見通しだ。

(2007年10月4日 日経金融新聞7面)

【CFOならこう読む】
サブプライム問題の影響を受け、株価が大きく下がったタイミングで連続して自社株買いを実行しています。キヤノンは業績好調であるため、そのままにしておくと株主資本が積み上がりROEは低下してしまいます。

多くの日本企業は自己資本が充実するのは良いことであると考えますが、資本効率という観点からは当面使う予定のない現金は株主に還元する方が望ましいと考えられます。このような資本政策を採用することにより資本構成を企業の考える最適点に誘導することを可能にします。
ROE=売上高当期純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ(総資産/株主資本)

と分解できます。各財務指標の最近5年間の推移は以下の通りです。
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業績好調なのは良いのですが、その分キャッシュが積み上がり総資産回転率と財務レバレッジが低下していることがわかります。

今期の自社株取得は4,500億円で設備投資額に匹敵する水準です。これだけの自社株買いを実行することにより、総資産回転率及び財務レバレッジの2つの財務数値が大きく改善されるため、その結果ROEが押し上げられることになります。

キヤノンは配当性向についても見直しを行い、従来配当と自社株買いを合わせた総配分性向で30%を目指すとしていたのを、今期からは連結配当性向だけで30%を目標とするとしています。

株主としては自分の手取り分が明確にわかるため配当性向だけで目標値を示す方が望ましいと言えます。

【リンク】
キヤノン株式会社:第106期 有価証券報告書(PDF)
http://www.canon.co.jp/ir/yuuhou/canon2006.pdf


by yasukiyoshi | 2007-10-04 09:00 | 最適資本構成