吉永康樹の CFOのための読みほぐしニュース

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2008年 03月 07日

外資を呼び込む数値目標ーアサツーDKのケース

アサツーディー・ケイの外国人持株比率が2007年12月期末に6割を超えた。株主配分や資本効率の重視を明確に掲げていることや、社長自らが出向く定期的な海外IRなどが奏功し、欧米の機関投資家を中心とする海外の長期資金が安定株主となっている。
昨年末のアサツーDKの外国人持株比率は61.9%と一年前に比べ6.7ポイント上昇した。同社の筆頭株主は1998年に資本提携した英広告大手WPPグループで、発行済株式の22.9%を握る。特定の外国企業の子会社ではない日本の上場企業で、外国人比率が6割を超すのはオリックスなど数少ない。

(日本経済新聞2008年3月7日 17面)

【CFOならこう読む】
アサツーDKの第3次中期経営計画(2008~2010年)の数値目標は次のとおりです。

1.EPS:2010年に170円以上(年平均成長率 13.5%)
2.ROE: 2010年に6%(2006年:3.7%、2007年:3.9%)
3.配当:現配当政策の継続
 (配当性向を連結当期純利益の35%、1株当たり20円を下限とする)

そしてそれを実現するための経営方針として次の事項を掲げています。

1.営業利益と当期純利益の伸長
2.現配当政策の維持と継続的な自社株取得(毎期発行済株式の4%)による株主資本の圧縮
3.成長分野への投資(Internal およびExternal)

この方針に従い、2007年度当期純利益は前期比6%増、前期の年配当は42円と56%(15円)増を達成しています。

ROE6%とは随分控えめな目標ですが、そこに至る経営方針及び株主配分政策を明確にした上で、真摯にIRを行うことで欧米の機関投資家を呼び込むことができるのですね。この程度のことなら自社でもできると感じるCFOは少なくないのではないでしょうか。

【リンク】
2008.2.20「2007年12月期決算説明会」株式会社アサツーディ・ケイ
http://www.adk.jp/ir/pdf/080220.pdf

平成19年2月14日「配当政策一部変更のお知らせ」株式会社アサツー ディ・ケイ
http://www.adk.jp/ir/pdf/070214_3.pdf

「(株)アサツー ディ・ケイ 【東証1部:9747】」Yahoo!ファイナンス
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=9747.t&d=c&k=c3&c=998405.t&t=1y&l=on&z=m&q=l&p=m65,m130,s


by yasukiyoshi | 2008-03-07 09:14 | 配当政策
2007年 12月 22日

製薬大手 株主配分、高水準続く

製薬大手の株主配分が2008年3月期も高水準を維持しそうだ。大手4社の2007年3月期の株主配分総額(配当金と自社株買いの合算)は4社合算純利益を上回ったが、今期も9月中間期で通期予想純利益の半分弱を株主に配分、通期では利益のほとんどを株主に返すペースが続いている。業績好調で潤沢な手元資金がさらに積み上がりかねない状況の中、自己資本利益率(ROE)など資本効率の悪化を防ぐのが狙いだ。
(2007年12月22日 日本経済新聞15面)

【CFOならこう読む】
同じ買収リスクにさらされている製鉄会社の最近の動きと比較すると面白いですね。M&Aが市場型資本主義において不可欠である理由は、経営資源がより効率的に経営されるような資源配分の効率化を促すからです。

希少な資源を効率的にマネジメントできない経営者の手から剥奪し、より効率的にマネジメントできる経営者に移動させることによって社会全体の富が増大すると考えられているのです。ですから買収されたくない経営者(ほぼ全ての経営者)は、他者よりもより効率的に経営する他ないのです。資本の観点から言うと”資本効率の悪化を防ぐ”ために余剰資金を株主に還元することが重要なのです。

ハーバード大学のとても著名な教授Michael C. JensenがM&Aについて、次のように言っています。M&Aの本質を極めて的確についていると思うので紹介します。
「経済的な分析と証拠は、テイクオーバー、LBO、そして企業再構築が、過去20年間において、主要な競争的変化に経済が適応するのを助ける、重要な役割を果たしてきたことを示している。代替的な経営チーム及び企業資産をコントロールするための組織構造の競争は、莫大な経営資源が、より素早く、最も有効活用される場所に移動することを可能にした。その過程において、株主だけでなく経済全体に対しても、かなりの利益が生み出された。1977年から88年の12年間における合併、買収、レバレッジド・バイアウト、及びその他の企業再構築による売手企業の株主の全体的な利益は、合計5000億ドル以上に達した。私は、同期間における買手企業の株主の利益が、少なくとも500億ドルになると推定する。これらの利益は、同時期に企業セクター全体で、投資家に対して支払われた現金配当合計額の53%に等しい。 合併と買収は、企業の方向性あるいは資源の利用について、戦略的な変化を求める新技術あるいは市場状況に対する、一つの反応である。既存の経営陣と比べて、新たなオーナーはしばしば、既存の組織構造の主要な変更をよりうまく実行できる。あるいは、レバレッジド・バイアウトは、経営陣に対する起業家的インセンティブを生み出すことと、大きな公開企業に内在する機動性を妨げる集権的官僚的障害を取り除くことにより、組織的変化をもたらす。
 経営陣が組織の実質的所有権を持つ場合、企業のフリー・キャッシュフローの支出に関する、株主と経営陣の間の利害衝突は軽減される。経営陣のインセンティブは、株主価値を無視して帝国を築くことよりも、企業価値を最大化することに焦点が絞られる。最後に必要となる負債の返済が、経営陣の配当支払に関する裁量と現金を過剰保有する傾向に置き換わる。こうした効率性の実質的な向上が生み出されるのである。」
(コーポレートファイナンスの原理 〔第6版〕 Stephen A. Ross他 1210ページ)

買収されないように入り口を閉じる会社と、買収されないようにさらなるROEの向上を目指す会社、どちらが資本主義経済における本質と合致しているか明らかだと私は思います。

【リンク】
「新日鉄・住金・神鋼、株式の相互追加取得を発表」日経ネット
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1D190AZ%2019122007&g=S1&d=2
0071219


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by yasukiyoshi | 2007-12-22 11:24 | M&A
2007年 11月 16日

自社株買いによるEVAの改善―花王のケース

花王、投下資本圧縮を加速 自社株買い最大300億円 EVA低下に歯止め
花王が資本効率の向上に再び動き出した。化粧品分野への先行投資や原材料高で収益が圧縮されるなか、自社株買いによって余剰資金を減らし、経営指標とするEVA(経済付加価値)の低下に歯止めを掛ける。EVAは2008年3月期には前期より悪化するが、2009年3月期から上昇トレンドへの回復を目指す。
(日経金融新聞2007年11月15日7面)

【CFOならこう読む】
EVAとは税引後営業利益から投下資本コスト(有利子負債と株主資本コストの合計)を差し引いて算出される金額で、これがプラスなら、投資家の期待リターンを上回る付加価値を生み出したことになります。EVAを増やすには、
① 税引後営業利益を増やす
② EVAがプラスとなる新規投資を行う
③ EVAがマイナスとなっている既存投資案件から撤退する
④ 資本コスト率を引き下げる

の4つの方法があります。

新聞記事によると300億円の自社株買いにより投下資本が圧縮され、EVAが20億円程度改善するとのことですが、この考え方は間違っていると私は思います。

20億円は、300億円に花王の加重平均資本コスト7%を掛けて計算されたものと思われますが、自社株買いをしても投下資本総額は減少しません。投下資本=ネットデット(有利子負債-余剰資金)+株主資本なので、自社株買いの原資が余剰資金でも借入でもネットデットは300億円増加するのです。

投下資本の圧縮によるEVAの改善は上で説明した③のルートを通じて行われます。これには運転資本の圧縮も含まれます。単に自社株買いをしても③の改善効果が生まれないのは当然といえます。

それでは自社株買いによるEVAの改善効果は全くないのかというとそんなことはありません。上の④の資本コストに影響してくるのです。簡単に言うと投下資本の総額が変わらなくても、その構成が資本コストの高い株主資本が減り資本コストの低い有利子負債が増加するというように変化すれば加重平均資本コストが低下するのです。

ただし花王の株式時価総額は1兆7000億円もあるので300億円程度の自社株買いでは加重平均資本コスト率の低減効果は限定的であると思います。

【花王】
「中間連結財務諸表」花王株式会社 平成20年3月中間決算短信
http://www.kao.co.jp/corp/ir/i03/pdfs/2007s/200709_06fs.pdf


by yasukiyoshi | 2007-11-16 09:07 | 最適資本構成
2007年 10月 11日

点検自社株買い 高まる機動性

自社株買いが活発だ。株主への利益配分手段として定着し、実施額は今年も過去最高を更新するとみられる。夏の相場急落時には株価のテコ入れ策としても注目を集めた。解禁から10年余り。企業は自社株買いをうまく使いこなせるようになったのか。点検する。
(2007年10月11日 日経新聞17面)

【CFOならこう読む】
理論的には自社株買いは株主価値に中立です。しかしイオンの豊島専務が言うように「低迷する株価に刺激を与えたい」という動機で自社株買いを行う会社は少なくありません。株価に影響を与えるとしたらそれはどのよう理由によるのでしょうか?

第一に、経営者が、株価が企業のファンダメンタルズ価値を下回っていることを確信していて、それを市場にアピールすることにより株価に影響を与えることがあります。これはシグナリング効果と呼ばれます。

第二に、企業にキャッシュフローが潤沢で、当面資本コストを上回るような投資案件もないことから、株価にこれが織り込まれていないときに、これを自社株買いまたは増配により株主に還元することにより株価に反映させることができる場合があります。

第三に、社債等負債により資金調達し、同時に自己株買いを実行し、負債比率を上昇させることにより資本コストを引き下げることができるなら、株主価値は上昇します。

記事によると、「米住宅ローン問題で相場が急落した夏場に自社株買いは一気に増加。8、9月の買い入れ額は1兆3,500億円に達した。4-9月累計は約2兆6千億円と半期で過去最高。一方、4-8月に公募増資・売り出しと新規公開の合計額は約4,800億円にとどまった。」とのことで、サブプライム問題の影響から長期金利が大きく

低下すると同時に、上場会社の株価がいっせいに大きく下げた場面で上の第一と第三の効果を狙って自社株買いが行われたのでしょう。

また、敵対的買収の脅威を感じているキャッシュリッチな会社が大きく株主還元策を打ち出す必要から、自社株買いに踏み切っている会社も相当数あるものと思います。いずれにしてもバブル以後、余剰設備の削減と資産効率の向上に力を注ぐと共に、負債の削減を徹底して行うことによりバランスシートの圧縮を図ってきた日本企業の資本政策が大きな転換点を迎えていることは間違いないと思います。

財務省が公表している法人企業統計によると自己資本比率は1995年度には19%であったのが、2006年は34%と大きく改善されています。自社株買いの増加は、バランスシート調整が完了したことを示しています。

余談ですが、記事にあるように「消却せず金庫株で持つ企業が多いことに不満がくすぶる」「いつ市場に出てくるか不透明。まず消却すべき」との意見がありますが、会社法上もファイナンス理論上も自社株買いと公募増資は全く同じ取扱いになっており、このような意見は、誤謬に基づくものであるので、CFOとしては聞き流して構わないでしょう。

【リンク】
法人企業統計調査(財務総合政策研究所)
http://www.mof.go.jp/1c002.htm


by yasukiyoshi | 2007-10-11 08:22 | 自社株取得
2007年 05月 25日

上場企業の半数が配当増、前期・総額は最高の5兆円弱

2007年3月期に前の期より配当を増やす企業は816社とほぼ2社に1社の割合。配当金の総額は前の期から19%増えて4兆9817億円と過去最高となった。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20070525AT2D2301S24052007.html


【読みほぐし】増配は何のため?
増配は株主価値に無関連である、というのはMMの配当無関連命題が教えてくれるところ。それでは増配の本質的な意味はどこにあるのでしょうか。

コーポレートファイナンスのテキストには、①シグナリング効果、②顧客効果と書かれています。

①のシグナリング効果とは、増配が、経営者の将来の強気の見通しを意味する、との期待から株価が動くというもの。

②の顧客効果とは、株主は配当政策が気に入ってその会社の株を買っている、だから増配を好む個人株主が多い、つまりキャピタルゲインより安定的な配当の方を好むある程度年配の株主個人株主が多いなら増配により株価が上昇することがあり得る、というもの。

また、増配そのものより、借入により増配(又は自己株取得)を行い、資本構成を変更し、資本コストの引き下げを図ることにより企業価値を増加させることも多くの日本企業にとっては重要でしょう。

したがってやみくもに増配に走るのではなく、その本質的な理由をつきつめて考え、それをきちんと有報なりに開示することが大切だと思います。

by yasukiyoshi | 2007-05-25 14:51 | 配当政策