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2009年 01月 22日

株式分割は株主還元策か?

テクノ菱和、今期末 1株を1.1株に分割 16年ぶり最高益更新株主への配分手厚く
テクノ菱和は2009年3月期末の株主を対象に、1株を1.1株に分割する見通しだ。今期の連結純利益が土地売却益の計上などで16年ぶりに最高を更新するのがほぼ確実なため株主への利益配分を手厚くする。分割は1997年9月以来。1株配当は前期比0.5円増の年16円(期末に9.5円配)の計画で、分割を考慮すると1.45円の増配となる。
(日本経済新聞2009年1月22日12面)
【CFOならこう読む】
株式分割は株数が1.1倍になる一方、1株当たりの価値(株価)は1/1.1に引き下げられるので、株主価値に与える影響はありません。株主還元が目的なら、株式分割をせずに1.45円だけ1株配当を増やせばそれで足りるはずですが、同時に株式分割をするのはどういう意味があるのでしょうか?

新聞記事は、この点、「会社は発行済み株式総数を増やして流動性の向上につなげたい考え」と説明しています。

それはそれで嘘ではないとは思いますが、別の理由もあると思います。
安定配当を基本方針とする日本の多くの上場企業は、儲かったら増配するのが困難です。一旦増配するとそれを継続することが求められるからです。

テクノ菱和も安定配当を行うことを次のように宣言しています。
「株主に対する配当政策は、経営の最重要課題の一つと認識し、長期的な視点に立って、財務体質の充実、競争力保持のため、内部留保の確保に意を用いつつ、配当性向を勘案して利益還元を図るとともに、安定した利益配当を維持することを基本方針といたしております。

当社の剰余金の配当は、中間配当及び期末配当の年2回を基本的な方針としております。配当の決定機関は、中間配当は取締役会、期末配当は株主総会であります。

当事業年度末の配当金につきましては、上記の方針に基づき1株につき9円50銭(年間では1株につき15円50銭)を実施いたしました。」
(第59期 2008年3月31日期末日 有報)

また配当政策は、配当の顧客効果、すなわち自社の配当政策を好む特定の投資家層を株主(顧客)として選択している効果を勘案すると、簡単に配当政策を変更するのは困難です。

「なぜなら、企業が急に配当政策を変更すれば、従来の配当政策を支持してきた株主は、自分の好む配当政策をおこなう他の企業の株式に乗り換える必要が生じるが、それにはコストがかかる上、予期せぬ株価の変動を引き起こす原因になりうるからである。」
(「経営財務入門」井手正介・高橋文朗著 日本経済新聞社)
したがって増配をする場合にも1株配当の増加の幅は極力小さくし、株式分割を併せて行うことにより実質的な増配をアピールするという方法が好まれるのです。
この方法によれば、将来仮に利益水準が低下したとしても、減配をせず、株式併合により配当減資を減らすことができるというのも経営陣に好まれる理由の一つでしょう。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2009-01-22 09:16 | 配当政策
2008年 11月 17日

株主配分、「利回り」により決定

イベント制作大手のテー・オー・ダブリューは株主配分に「利回り」の考え方を採り入れる。年間配当額を株価で割った配当利回り4.5%に相当する配当金と、連結ベース配当性向40%になる配当金比べて、高いほうで支払うという内容だ。
(日経ヴェリタス 2008年11月16日 14面)
【CFOならこう読む】
以下TOWのプレスリリースからの抜粋です。
「来期(平成22 年6月期)より利益配分の指標として、連結ベースの配当性向および株価配当利回りを基本といたします。
具体的には、来期(平成22 年6月期)の連結業績予想の当期純利益に対して、配当性向40%で算出された一株当たりの予想配当金と、本決算発表日(平成21 年8月6日)の前日の終値に株価配当利回り4.5%を乗じて算出された一株当たりの配当金のいずれか高い方を最低配当金として配当金を決定することとし、来期以降も同様といたしたいと存じます。なお、連結配当性向40%は下限目標といたしますが、株価配当利回りにつきましては、市場金利等の動向を勘案して決定いたします。
また、内部留保の確保という従来からの基本方針に基づき、株価の急騰局面においては、連結配当性向換算で100%を上限として配当額を決定したいと存じます。」
TOWは、主に資金源泉を内部留保に求めており、投資も概ね営業キャッシュフローの範囲に抑えられています。将来の成長よりも株主還元を重視していると言えます。

配当利回りを東証上場平均を約2%上回る水準に設定することで、「長期に保有してくれる株主づくりにつなげたい」と川村社長は説明しています。

14日終値は524円。利回り4.5%から配当金は23.58円と計算されます。今期予想配当は32円なので、支払配当金は32円となり、このとき配当利回りは6.1%となります(但し、新しい配当政策は、2010年6月期から導入されることに留意してください)。

つまり、この配当政策は、4.5%の配当利回りを最低保証する方式であると言うことができます。

【リンク
平成20年11月10日「配当方針に関するお知らせ」株式会社テー・オー・ダブリュー
http://www.tow.co.jp/ir/pdf/release/20081110_1.pdf


by yasukiyoshi | 2008-11-17 08:53 | 配当政策
2008年 08月 01日

武田薬品の配当政策

武田、買収費用を一括計上 4-6月 63億円の経常赤字に
武田薬品工業が31日発表した2008年4-6月期の連結決算は、経常損益が63億円の赤字(前年同期は1904億円の黒字)だった。2005年3月期の4半期業績開示以来、初の赤字。米バイオベンチャー買収や米合弁会社の子会社化に伴って一括計上しなければならない「インプロセスR&D」(仕掛研究開発費=IPR&D)が発生したため。2009年3月期通期の業績予想は上方修正した。
(日本経済新聞 2008年8月1日 13面)
【CFOならこう読む】
武田薬品の2009年3月期通期の業績予想を、経常利益3000億円(前期比44%減)、純利益2000億円(前期比44%減)としています。

武田薬品の1株当たり配当金の推移は次の通りです。

e0120653_805224.jpg


買収関連費用の一括計上に伴い2009年3月期の配当性向は88.5%(買収関連の会計処理確定に伴い70%程度になると思われる)と跳ね上がります。

従来、武田薬品は配当政策を次のように公表していました。
「配当につきましては、長期的な視点に立ち、連結業績に応じた安定的な利益の配分を基本方針とするとともに、「06-10中期計画」最終年度の連結配当性向を「45%程度」とすることを目標に、段階的に引き上げてまいります。」
これを2008年3月期の有報では以下のように変更しています。
「配当につきましては、長期的な視点に立ち、連結業績に応じた安定的な利益の配分を基本方針とするとともに、ミレニアム社の子会社化に伴う無形資産等の償却費控除前の利益に対して、「「06-10中期計画」最終年度の連結配当性向を「45%程度」とすることを目標に、段階的に引き上げてまいります。」
【リンク】
平成20年7月31日「平成21年3月期 第1四半期決算短信」武田薬品工業株式会社
http://www.takeda.co.jp/pdf/usr/default/j00_28266_2.pdf

平成20年6月26日「第131期 有価証券報告書」武田薬品工業株式会社
http://www.takeda.co.jp/pdf/usr/default/asr131_28219_1.pdf

平成19年6月28日「第130期 有価証券報告書」武田薬品工業株式会社
http://www.takeda.co.jp/pdf/usr/default/asr130_23637_1.pdf




by yasukiyoshi | 2008-08-01 07:58 | 配当政策
2008年 06月 17日

親子上場問題-NTTのケース

NTT配当原資確保に苦慮
グループ全体の成長力が低迷
NTTが株主への利益配分を強化している。2009年3月期は年間配当を前期比2000円増の1万1000円とするうえ、自社株取得枠の設定も2000億円と前期実績(956億円)の2倍以上にする予定だ。株価が前期末の1株当たり純資産(54万3361円、会社発表)を下回る状態が続く中で、利益配分を積み増している。だが持株会社であるNTTにとって、利益配分の原資は子会社からの配当金。グループ全体の成長力が低迷しており、原資の確保が難しくなりつつある。
(日経ヴェリタス 2008年6月15日 15面)

【CFOならこう読む】
NTTは、2008年3月期決算短信の中で、利益配分に関する基本方針を次のように説明しています。
「当社では、中長期的に企業価値を高めるとともに、株主の皆様に利益を還元していくことを重要な経営課題の一つとして位置づけております。配当につきましては、安定性・継続性に配意しつつ、業績動向、財務状況及び配当性向等を総合的に勘案して行ってまいります。当期の配当につきましては、期末配当を1株当たり4,500 円とし、中間配当4,500 円と合わせ年間配当を9,000 円とする予定です。次期の配当につきましては、通期では普通配当11,000 円とする予定です。なお、内部留保資金につきましては、財務体質の健全性を確保しつつ、成長機会獲得のための投資や資本効率を意識した資本政策などに活用してまいります。」
NTTが2008年3月期の単独決算に計上した受取配当金は2132億円。この原資はグループ会社からの配当金で、NTTドコモ1216億円、全額出資する地域通信会社のNTT東日本の335億円、NTT西日本の312億円との3社合計で全体の9割弱を負担しています。

NTTは2009年3月期の受取配当金は前期比7%減の1990億円と見込まれています。受取配当金が減少するのは、NTT西日本が前期無配に転落したためです。この312億円の穴を埋めるために、市場の一部でNTTドコモの増配観測が浮上しています。ドコモ幹部は、「我々は上場企業。NTTの配当のために増配はできない」とこの観測を否定しています。

この発言自体、親会社と少数株主との利益相反の存在を認めているもので、親子上場問題の深刻さを物語っているように私には思えます。

【リンク】
平成20年5月13日「平成20年3月期 決算短信[米国会計基準]」日本電信電話株式会社
http://www.ntt.co.jp/ir/library/results/pdf/H2003kessan0513.pdf


by yasukiyoshi | 2008-06-17 08:37 | 配当政策
2008年 03月 28日

子会社株式売却による配当原資の確保-ソフトバンクのケース

ソフトバンク ヤフーなど3銘柄売却 配当原資の確保狙う
ソフトバンクは27日、子会社のヤフーなど3銘柄を別のグループ会社に売却したと発表した。ソフトバンク単独の2008年3月期の特別利益に売却益298億円を計上する。
ソフトバンクは持株会社で収入源が限られるため、保有株式のグループない移転によって配当原資を譲渡する狙いとみられる。

(2008年3月28日 日本経済新聞 18面)
【CFOならこう読む】
昨日に引き続き今日も配当のお話です。配当原資を確保するためにグループ内の会社に子会社株式を売却するという行為には問題があります。子会社株式を時価評価し、単体財務諸表の損益に取り込んでいるのと変わらないからです。

しかし問題の本質は別の所にあります。持株会社の配当財源を単体財務諸表の剰余金に基づき算定することにそもそも無理があるのです。連結財務諸表により配当可能利益の計算することを認めるべきです。会社法は連結配当規制適用会社となることを認めていますが、これは連結貸借対照表の株主資本等の額が単体貸借対照表のそれを下回る場合にその差額分だけ分配可能額から控除することを認めるもので、単体で配当原資がないが連結ではある場合に連結ベースで配当することを認めるものではありません。
「アメリカの州会社法には、株主への財産分配の限度額を連結貸借対照表に基づき算定するものがあり、この場合、親会社の個別貸借対照表上欠損があっても、親会社と子会社の連結貸借対照表上に分配可能額があればその限度で親会社が株主に対して財産分配ができることになる」
(「株式会社法 第2版」江頭憲治郎 有斐閣 613頁)
とのことで、日本でも同様の制度が認められるべきであると、私は思います。

【リンク】
2008年3月27日「当社保有株式の全額出資子会社への譲渡に関するお知らせ」
http://www.softbank.co.jp/news/release/2008/080327_0001.html

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by yasukiyoshi | 2008-03-28 07:52 | 配当政策
2008年 03月 27日

自己資本総配分率-株主配分の新しい指標

自己資本総配分率 関西電、株主配分の指標に 自社株買いも算出基準
関西電力は26日、株主配分の指標として「自己資本総配分率」を導入すると発表した。配当総額と自社株の取得予定額を自己資本で割った値で、4%程度を目標とする。同社が具体的な株主配分目標を掲げるのは初めてで、この指標は上場企業の中でも珍しい。株主配分の方針を明確にし、個人株主などの増加につなげる。
(2008年3月27日 日本経済新聞 17面)
【CFOならこう読む】
この自己資本総配分率という指標は一般投資家にとってどのような意味があるのでしょうか? 

個人株主にとって重要なのは、利得を配当で実現するのか(毎年の手取りはいくらか)、キャピタルゲインで実現するのかです。そして企業の配当政策を株主は気に入ってその企業の株式を買うのです。これをファイナンスでは”配当の顧客効果”と言います。

関西電力のように景気変動に左右されにくく、伝統的に安定配当を続けてきた会社の株主は、安定配当を望むのです。減配を自社株買いで調整することを是とする株主は少ないはずです。このいう会社の株主配分の指標は自己資本配当率(DOE)の方が適していると私は思います。

【リンク】
「株主還元方針の策定に関するお知らせ」
http://www.kepco.co.jp/ir/pdf/20080326.pdf

by yasukiyoshi | 2008-03-27 08:13 | 配当政策
2008年 03月 18日

株価下落時の財務戦略ー増配・自社株買い

増配や自社株買い積極化 -企業、株価下落に危機感-
日経平均株価が約2年7ヶ月ぶりに1万2000円を割り込む中、企業が株主への利益配分拡大などで、株価のテコ入れに動いている。前期まで好業績で積み上がった豊富な現預金を使い、増配や自社株買いを積極化する企業が目立つ。株主優待制度を開始・拡充する企業も多い。ただ円高や原燃料高で企業業績への懸念が広がっているだけに、どれだけ即効性があるかは不透明だ。
(2008年3月18日 日本経済新聞17面)
【CFOならこう読む】
e0120653_14262873.jpg私の師匠である井手正介先生は、学生のレベルを測るために昨日の相場(日経平均、TOPIX、NYダウ、ナスダック指数、長期金利、円・ドル相場、円・ユーロ相場)を白い紙に書かせるということを最初の講義のときにしていました。マーケットを見ていない学生は、何も知らない学生だという強い信念が先生にはありました。

このブログを始めるに当たり、私自身が毎日の相場を手で確認しようと考え、基本的なマーケットデータをグラフとともに掲載しています。CFOにとって最低限必要と思われるデータに絞って掲載していますが、予想PERを掲載しているのが特徴的であるかもしれません。

日経225の予想PERを知ることが自社株式のバリュエーションを行う上でも第1ステップになるからです(予想PERは日経新聞のどこに掲載されているかご存知ですか?)。毎日PERを確認しているとグングン低下していることが実感としてわかります。昨年後半一時18倍を超えていた予想PERが13倍をもうすぐ割り込むところまで下がっています。この水準は36年ぶりの低水準だそうです。

株価の下落に伴い当然買収リスクは増大します。CFOとしては増配や自社株買いといった株価のテコ入れ策に動かざるを得えないところでしょう。ところでコーポレートファイナンスという学問が教えてくれるところでは、増配も自社株買いも株主価値には基本的には影響を与えません。ただし常に影響がないわけではなく、これらが株主と経営者との間の経営者の強い自信に裏打ちされており、その自信が株主にうまく伝わると株価が上昇する場合があるのです。

例えば配当は一回増やすとなかなか減らすことが難しいので、増配は将来の業績に対する経営者の自信を裏付けるものとみなされるとか、自社のファンダメンタル価値をよく知っている経営者が、その価値に比して今の株価は割安であるから自社株買いを行うことにより、自社の株価に対する自信を示すとかといったことです。したがって単に株主への配分を増やしたから株価が上がるというわけではないことを知る必要があります。

【リンク】
 なし

by yasukiyoshi | 2008-03-18 13:10 | 配当政策
2008年 03月 07日

外資を呼び込む数値目標ーアサツーDKのケース

アサツーディー・ケイの外国人持株比率が2007年12月期末に6割を超えた。株主配分や資本効率の重視を明確に掲げていることや、社長自らが出向く定期的な海外IRなどが奏功し、欧米の機関投資家を中心とする海外の長期資金が安定株主となっている。
昨年末のアサツーDKの外国人持株比率は61.9%と一年前に比べ6.7ポイント上昇した。同社の筆頭株主は1998年に資本提携した英広告大手WPPグループで、発行済株式の22.9%を握る。特定の外国企業の子会社ではない日本の上場企業で、外国人比率が6割を超すのはオリックスなど数少ない。

(日本経済新聞2008年3月7日 17面)

【CFOならこう読む】
アサツーDKの第3次中期経営計画(2008~2010年)の数値目標は次のとおりです。

1.EPS:2010年に170円以上(年平均成長率 13.5%)
2.ROE: 2010年に6%(2006年:3.7%、2007年:3.9%)
3.配当:現配当政策の継続
 (配当性向を連結当期純利益の35%、1株当たり20円を下限とする)

そしてそれを実現するための経営方針として次の事項を掲げています。

1.営業利益と当期純利益の伸長
2.現配当政策の維持と継続的な自社株取得(毎期発行済株式の4%)による株主資本の圧縮
3.成長分野への投資(Internal およびExternal)

この方針に従い、2007年度当期純利益は前期比6%増、前期の年配当は42円と56%(15円)増を達成しています。

ROE6%とは随分控えめな目標ですが、そこに至る経営方針及び株主配分政策を明確にした上で、真摯にIRを行うことで欧米の機関投資家を呼び込むことができるのですね。この程度のことなら自社でもできると感じるCFOは少なくないのではないでしょうか。

【リンク】
2008.2.20「2007年12月期決算説明会」株式会社アサツーディ・ケイ
http://www.adk.jp/ir/pdf/080220.pdf

平成19年2月14日「配当政策一部変更のお知らせ」株式会社アサツー ディ・ケイ
http://www.adk.jp/ir/pdf/070214_3.pdf

「(株)アサツー ディ・ケイ 【東証1部:9747】」Yahoo!ファイナンス
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=9747.t&d=c&k=c3&c=998405.t&t=1y&l=on&z=m&q=l&p=m65,m130,s


by yasukiyoshi | 2008-03-07 09:14 | 配当政策
2007年 12月 22日

製薬大手 株主配分、高水準続く

製薬大手の株主配分が2008年3月期も高水準を維持しそうだ。大手4社の2007年3月期の株主配分総額(配当金と自社株買いの合算)は4社合算純利益を上回ったが、今期も9月中間期で通期予想純利益の半分弱を株主に配分、通期では利益のほとんどを株主に返すペースが続いている。業績好調で潤沢な手元資金がさらに積み上がりかねない状況の中、自己資本利益率(ROE)など資本効率の悪化を防ぐのが狙いだ。
(2007年12月22日 日本経済新聞15面)

【CFOならこう読む】
同じ買収リスクにさらされている製鉄会社の最近の動きと比較すると面白いですね。M&Aが市場型資本主義において不可欠である理由は、経営資源がより効率的に経営されるような資源配分の効率化を促すからです。

希少な資源を効率的にマネジメントできない経営者の手から剥奪し、より効率的にマネジメントできる経営者に移動させることによって社会全体の富が増大すると考えられているのです。ですから買収されたくない経営者(ほぼ全ての経営者)は、他者よりもより効率的に経営する他ないのです。資本の観点から言うと”資本効率の悪化を防ぐ”ために余剰資金を株主に還元することが重要なのです。

ハーバード大学のとても著名な教授Michael C. JensenがM&Aについて、次のように言っています。M&Aの本質を極めて的確についていると思うので紹介します。
「経済的な分析と証拠は、テイクオーバー、LBO、そして企業再構築が、過去20年間において、主要な競争的変化に経済が適応するのを助ける、重要な役割を果たしてきたことを示している。代替的な経営チーム及び企業資産をコントロールするための組織構造の競争は、莫大な経営資源が、より素早く、最も有効活用される場所に移動することを可能にした。その過程において、株主だけでなく経済全体に対しても、かなりの利益が生み出された。1977年から88年の12年間における合併、買収、レバレッジド・バイアウト、及びその他の企業再構築による売手企業の株主の全体的な利益は、合計5000億ドル以上に達した。私は、同期間における買手企業の株主の利益が、少なくとも500億ドルになると推定する。これらの利益は、同時期に企業セクター全体で、投資家に対して支払われた現金配当合計額の53%に等しい。 合併と買収は、企業の方向性あるいは資源の利用について、戦略的な変化を求める新技術あるいは市場状況に対する、一つの反応である。既存の経営陣と比べて、新たなオーナーはしばしば、既存の組織構造の主要な変更をよりうまく実行できる。あるいは、レバレッジド・バイアウトは、経営陣に対する起業家的インセンティブを生み出すことと、大きな公開企業に内在する機動性を妨げる集権的官僚的障害を取り除くことにより、組織的変化をもたらす。
 経営陣が組織の実質的所有権を持つ場合、企業のフリー・キャッシュフローの支出に関する、株主と経営陣の間の利害衝突は軽減される。経営陣のインセンティブは、株主価値を無視して帝国を築くことよりも、企業価値を最大化することに焦点が絞られる。最後に必要となる負債の返済が、経営陣の配当支払に関する裁量と現金を過剰保有する傾向に置き換わる。こうした効率性の実質的な向上が生み出されるのである。」
(コーポレートファイナンスの原理 〔第6版〕 Stephen A. Ross他 1210ページ)

買収されないように入り口を閉じる会社と、買収されないようにさらなるROEの向上を目指す会社、どちらが資本主義経済における本質と合致しているか明らかだと私は思います。

【リンク】
「新日鉄・住金・神鋼、株式の相互追加取得を発表」日経ネット
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT1D190AZ%2019122007&g=S1&d=2
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by yasukiyoshi | 2007-12-22 11:24 | M&A
2007年 12月 14日

配当政策ーオリックスのケース

オリックス宮内会長インタビュー、インド・中東を収益源に、不動産や企業再生
オリックスの株価は信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題の余波で十一月に年初の半値まで急落した。不動産関連事業をけん引役に過去五年で利益を約四倍に伸ばしたが、株式市場はオリックスの成長の鈍化を懸念し始めている。
http://www.nikkei.co.jp/ks/topnews/20071213f1acd000_13.html

【CFOならこう読む】
記者のオリックスの配当性向の低さの指摘に対し、宮内義彦会長は次のように答えています。
-2007年3月期実績で連結ベースの配当性向はわずか6%。改善余地はないですか。
「機関投資家から『成長と同時にそれなりの配当は出して欲しい』という声が強まっている。当社はまだ着実な成長を続けられると考えており、高配当を出すことで株主をつなぎ止める考えはない。とはいえ、上場企業の平均に比べて配当水準が低すぎることは認識している。前期の130円の配当で(増配を)止めるつもりはない」
企業の資金需要は、内部成長率=ROE×(1-配当性向)を超えて成長しているかどうかによって決まります。
オリックスの場合、2007年3月期の内部成長率は、ROEが18.3%、配当性向が8%なので、18.3%×(1-0.08)=16.8%です。
一方2007年3月期の営業収益は2006年3月期の営業収益に比べ、22.9%増加しています。
このように内部成長率を超えて成長している会社は、資金が不足し外部資本を必要とするので、極力配当を抑えその分再投資に回す方が株主価値を増加することができます。

株主は年齢、リスク許容度、収入等によってそれぞれ配当に対する考え方は異なります。したがって会社は自社の配当政策をきちんと株主に説明し、理解してもらった上で株式を買ってもらう必要があります。オリックスは、2007年3月期有価証券報告書の中で配当政策について次のように記載しています。
「当社は事業活動で得られた利益を主に内部留保として確保することにより、事業基盤の強化や成長のための投資に活用し、財務の健全性を維持しつつ持続的な成長を果たすことが株主価値の拡大に繋がると考えております。
現在の方針としましては、株主の皆様には、中長期的な利益成長による株主価値の増大及び安定的な配当によりご期待に応えてまいりたいと考えております。また、自己株式の取得につきましては、必要な内部留保の水準を考慮し、経営環境の変化、株価の動向、および財務状況を勘案のうえ適切に対処してまいります。」

宮内会長の話と矛盾しない記述になっていますね。
内部成長率と資金との関係についてもう少し深く勉強されたい方は、以前紹介した「〔新版〕ファイナンシャル・マネジメント」第4章成長の管理を読んでみると良いと思います。

【リンク】
「第44期 有価証券報告書」オリックス株式会社
http://www.orix.co.jp/grp/ir_j/ir_pdf/ORIXYuho0703.pdf

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by yasukiyoshi | 2007-12-14 08:50 | 配当政策