吉永康樹の CFOのための読みほぐしニュース

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2007年 07月 20日

村上被告に懲役2年、追徴金11億4900万円・東京地裁

村上被告は捜査段階では容疑を認めたが、公判では無罪を主張。
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070719AT1G1900O19072007.html

(CFOならこう読む)
インサイダー取引とは、会社経営者などが未公開情報を入手できる地位にある者が
未公開の重要情報を利用して行う証券取引をいいます。
金融商品取引法では、166条が内部情報に関するインサイダー取引を禁止し、
167条が外部情報に関するインサイダー情報を禁止しています。

村上被告は167条のインサイダー取引を行った罪により罰せられます。
167条は公開買付・株式買集め(上場株券等の5%以上の買集め)に関する重要事実について、
公開買付者・買集め者と一定の関係にある者による証券取引を禁止しています。
違反者は5年以下の懲役、500万円以下の罰金、またはその両方が科され、
法人の財産またはその業務に関してインサイダー取引が行われたときは、
法人に5億円以下の罰金が科されます。
インサイダー取引によって得た財産は没収の対象となり、
没収できない場合はその物の価額が追徴されます。
村上被告が支払う11億4900万円がこの追徴金であるわけです。

ところでインサイダー取引はなぜ禁止されなければならないのでしょうか?
ファイナンスという学問は市場が効率的であるという仮説を前提に理論が構築されています。
市場の効率性は次の3つのレベルに分類されます。

①ウィークフォームの市場の効率性
過去の価格情報に関して市場は効率的であり、
過去の価格だけに基づいた情報を用いて投資しても利益は得られない。

②セミストロングフォームの市場の効率性
公開情報全てに関して市場は効率的であり、公開情報を用いて投資を行っても
それは全て価格に織り込まれているので利益を得ることはできない。

③ストロングフォームの市場の効率性
内部情報も含めてすべての情報に関して市場は効率的であり、
例えばインサイダー取引を行ってもそれは全て価格に織り込まれているので利益を得ることはできない。

市場がストロングフォームのレベルで効率的であるなら、
インサイダー取引を禁止することにより逆に市場の効率性を阻害するという見方も成り立ちます。
そうすると何故インサイダー取引が禁止されなければならないのか良くわからなくなります。
つまるところ多くの人がインサイダー取引を不公正であると感じ、
そうである以上これを禁止しなければ一般投資家が取引に参加せず証券市場が機能しなくなる恐れがあるのでこれを禁止しなければならないという程度のものなのです。
地裁の「一般投資家が模倣しようとしても決してできない特別な地位を利用した犯罪」という判決は的確であるとは思いますが、
一体それの何が悪いのかといった所にまで踏み込んでもらいたかったとも思います。

「現代資本主義社会の中で企業価値創造経営を行うためには、
その代理変数として株価を意識した経営を行う必要があり、
そのためには株価が株主価値を適切に反映したものでなければならず、
証券市場が正しく機能するために不公正な取引は排除されなければならない」

くらいのことを言ってもらえれば村上被告のずっと言ってきた主義主張と合致し反論の余地はないはずです。

by yasukiyoshi | 2007-07-20 08:56


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