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2007年 11月 19日

金庫株は消却すべきか?―キヤノンのケース

キヤノン、金庫株消却せず M&Aに活用
キヤノンの業績が好調だ。2007年1月―9月の純利益は過去最高となり、12月期通期の営業利益を上方修正した。だが、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題などで米景気の減速懸念が高まっているうえ、為替の円安修正も進んでいる。先行きの見通しや資本政策などについて大沢正宏常務経理本部長に聞いた。
(日経金融新聞2007年11月19日5面)

【CFOならこう読む】
自社株買いに関する質疑応答部分のみ抜粋します。

― 今期から自社株買いを始め、4500億円買い付けた。

「資本効率を高めながら、機動的な資本戦略に備えるのが狙いだ。今夏に多額の自社株買いを実施したのは、サブプライム問題が起きたというのもあるが、自社の株価が割安とのメッセージを市場に発するという効果も考えた。今後も自社株買いは市場の状況をみながら、機動的に実施していく」

― 買い入れた自社株を消却していない。

「自己株式は将来のM&Aに活用し、消却はしない。アナリストからはなぜ消却しないのかと言われるが、企業経営はバランス。M&Aをしたいと思ったときに即応できなければいけない。当社はグローバルに展開しており、いつ何が起こるか分からない。コカ・コーラなど、米国企業も大量の金庫株を保有している」

CFOニュースで何度かお話ししたように、自己株取得は理論的には株価に中立です(ブリーリー、マイヤーズ「コーポレートファイナンス第6版」日経BP社 486ページ)。

それでは多くの企業が自社株買いを行うのでしょうか?この点についてロス「コーポレートファイナンスの原理第6版」は次のよう説明しています。
多くの企業は、買戻しが最良の投資であると考えるので、株式を買い戻す。これは、株価が一時的に割安になっていると経営陣が考えるときに頻繁に起こる。ここでは、①非金融資産の投資機会が少なく、そして②自社の株式が時間とともに上昇すると考えられている可能性が高い。

経営陣が株式が割安だと思うときに、企業が株式を買戻すという事実は、決して会社の経営陣が正しいことを意味しない。実証研究のみが検証可能である。株式市場の買戻しの発表に対する即座の反応は、通常好意的である。

加えて最近の実証研究は、買戻し後の長期株価パフォーマンスが、買戻しを行わない同等の企業の株価パフォーマンスよりずっとよいことを示している。
キヤノンの場合、自社株買いにより一時株価が上昇したもののその効果は持続せず11月13日には年初来最安値を更新しました。経営陣の“株価が割安である“との確信を、市場は額面通り受け止めていないということでしょう。

アナリストは金庫株を消却するかしないかを問題にすることがありますが、消却してもしなくても経済的効果は全く同じです。この点を問題にすることは全くナンセンスであると言えます。

大沢氏が言っているように、例えばコカコーラ社は2007年7月28日現在発行済株式3,519株であるのに対し、このうち1,211株を金庫株として保有しています。

【リンク】
THE COCA-COLA COMPANY AND SUBSIDIARIES
CONDENSED CONSOLIDATED BALANCE SHEETS
http://ir.thecoca-colacompany.com/phoenix.zhtml?c=94566&p=irol-SECText&TEXT=aHR0cDovL2NjYm4uMTBrd2l6YXJkLmNvbS94bWwvZmlsaW5nLnhtbD9yZXBvPXRlbmsmaXBhZ2U9NTIyOTMwNiZkb2M9MSZudW09NQ%3d%3d

キヤノン(株) 【東証1部:7751】:Yahoo!ファイナンス
http://quote.yahoo.co.jp/q?d=c&c=&k=c3&t=3m&s=7751.t&l=on&a=&p=&z=m&q=l&y=on


by yasukiyoshi | 2007-11-19 12:47


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