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2008年 06月 17日

親子上場問題-NTTのケース

NTT配当原資確保に苦慮
グループ全体の成長力が低迷
NTTが株主への利益配分を強化している。2009年3月期は年間配当を前期比2000円増の1万1000円とするうえ、自社株取得枠の設定も2000億円と前期実績(956億円)の2倍以上にする予定だ。株価が前期末の1株当たり純資産(54万3361円、会社発表)を下回る状態が続く中で、利益配分を積み増している。だが持株会社であるNTTにとって、利益配分の原資は子会社からの配当金。グループ全体の成長力が低迷しており、原資の確保が難しくなりつつある。
(日経ヴェリタス 2008年6月15日 15面)

【CFOならこう読む】
NTTは、2008年3月期決算短信の中で、利益配分に関する基本方針を次のように説明しています。
「当社では、中長期的に企業価値を高めるとともに、株主の皆様に利益を還元していくことを重要な経営課題の一つとして位置づけております。配当につきましては、安定性・継続性に配意しつつ、業績動向、財務状況及び配当性向等を総合的に勘案して行ってまいります。当期の配当につきましては、期末配当を1株当たり4,500 円とし、中間配当4,500 円と合わせ年間配当を9,000 円とする予定です。次期の配当につきましては、通期では普通配当11,000 円とする予定です。なお、内部留保資金につきましては、財務体質の健全性を確保しつつ、成長機会獲得のための投資や資本効率を意識した資本政策などに活用してまいります。」
NTTが2008年3月期の単独決算に計上した受取配当金は2132億円。この原資はグループ会社からの配当金で、NTTドコモ1216億円、全額出資する地域通信会社のNTT東日本の335億円、NTT西日本の312億円との3社合計で全体の9割弱を負担しています。

NTTは2009年3月期の受取配当金は前期比7%減の1990億円と見込まれています。受取配当金が減少するのは、NTT西日本が前期無配に転落したためです。この312億円の穴を埋めるために、市場の一部でNTTドコモの増配観測が浮上しています。ドコモ幹部は、「我々は上場企業。NTTの配当のために増配はできない」とこの観測を否定しています。

この発言自体、親会社と少数株主との利益相反の存在を認めているもので、親子上場問題の深刻さを物語っているように私には思えます。

【リンク】
平成20年5月13日「平成20年3月期 決算短信[米国会計基準]」日本電信電話株式会社
http://www.ntt.co.jp/ir/library/results/pdf/H2003kessan0513.pdf


by yasukiyoshi | 2008-06-17 08:37 | 配当政策


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