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2008年 07月 10日

短期売買利益の返還-アデランスのケース

アデランス株スティールが短期売買 会社側、利益返還請求を検討
アデランスホールディングスは9日、スティール・パートナーズがアデランス株の短期売買で5900万円の利益を上げていたと発表した。金融商品取引法は10%以上の株式を保有する株主が6ヶ月以内の売買で利益を得た場合、会社側は売買差益を返すよう株主に請求できると規定。アデランスは同規定に従い、返還を求める方向で検討している。
(日本経済新聞 2008年7月10日 14面)
【CFOならこう読む】
今朝は金商法で規定されている短期売買利益の返還制度についてお話しします。
「上場会社の役員(取締役・監査役・執行役)および10%以上の議決権を有する主要株主は、自社株を6ヶ月以内に売買して得た利益を会社に提供しなければなりません(164条)。この短期売買利益の提供制度は、インサイダー取引を防止するために昭和23年制定当時の証券取引法に規定が置かれたもので、昭和63年のインサイダー取引禁止立法後も生き残りました。利益の提供義務が生じる場合には、実際に未公開情報を知って取引したことを要しません。この制度は短期売買自体を禁止するものではなく、単に利益の保持を制限するに過ぎないことから、最高裁は、164条は憲法29条(財産権の保障)に反しないと判断しました(平成14年2月13日)。

会社が役員等に対して短期売買利益の提供を請求しないときは、株主が会社に代位して請求することができます。利益提供請求をしやすくするために、役員および主要株主は自社株等の売買をしたときは、翌月15日までに売買報告書を内閣総理大臣に提出しなければなりません(163条)。」(「金融商品取引法入門」黒沼悦郎著 日本経済新聞社)。

「どうして、こんな一見、役員・主要株主に酷とも思われることが決められているのかというと、役員・主要株主は、自社の内部情報について、一般の株主等よりも早くよく知ることができる立場にあるので、この特権を利用して、利益を得ることを防ごうというところにある。そのためには、常時、役員・主要株主の取引状況を把握しておく必要があるので、売買の報告義務を定め、売買利益の有無をチェックできるようにしたのである。」(「証券取引法読本 第7版」河本一郎・大武泰南著 有斐閣)。

「民法上の組合のように法人格のないファンドが投資をするとき、10%以上の主要株主に該当するかどうかは、ファンドの背後にいる組合員ごとに計算することになります。ここでは利益の帰属主体が問題だからです。ところがファンドの背後にいる株主を把握することが難しいため、金融商品取引法は、主要株主に当たるかどうかを組合が有する議決権で判断することにしました(165条の2)。
短期売買利益をあげているか否かも組合ごとに判断し、組合員の全員が利益の提供義務を負います。売買報告は組合ごとに作成し、ファンドの運用業者がいる場合は当該業者を通じて、取引を執行した組合員が提出します。
この改正により、短期的な利益を目的とする投資ファンドの活動が抑制されることになるでしょう。」(「金融商品取引法入門」黒沼悦郎著 日本経済新聞社)。
記事によると返還された場合、アデランスは2009年2月期に特別利益として計上する見通しであるとのこと。

「中間売上高の会社予想に対する三―五月期実績の進ちょく率は四七%にとどまる。六月から宣伝量を再び増やしているが、かつらの売り上げは前年を下回ったままで事業環境は厳しい」(日本経済新聞 2008年7月9日 17面)中、さすがスティール、会社の価値創造にこういう形で貢献するのですね。有難い話です。

【リンク】
2008年7月9日「短期売買に係る『組合利益関係書類』(写)の受領について」株式会社アデランスホールディングス
http://www.aderans.co.jp/company/investors/images/pdf/20080709.pdf

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by yasukiyoshi | 2008-07-10 09:59 | 法務


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