2009年 01月 14日
利益の蓄積、手元資金と別 雇用を守るため、企業の「内部留保」を活用すべきだとの意見が政治家や労働組合から出ている。だが内部留保は企業が自由に使える手元資金とは違う。内部留保の考え方の要点をまとめた。【CFOならこう読む】 確かに、最近多くの政治家から内部留保を使って雇用を守れ、といった意見が聞かれます。しかしこういうことを言う人は、企業の財務諸表の見方がよくわかっていないように思います。京セラの創業者である稲盛和夫さんが、「稲盛和夫の実学―経営と会計」の中で、”剰余金(準備金)は会社のどこの金庫にあるのか”ということを経理担当者に何度も聞いたけれど、なかなかその意味がわからなかった、というようなことを書かれていますが、同様の誤解が「雇用を守るため内部留保を活用すべきだ」と言う人にあるのだと思います。 今日の新聞記事にもあるように、内部留保(=利益剰余金)とは、純資産の内訳のひとつにすぎません。 純資産とは、資産と負債の差額ですから、その分手元資金として会社が保有しているわけではありません。 これを取り崩せということは、企業に損を出せと言っているに等しいのです。損を出してまで雇用を守れ、ということを政治家は何の権利があって経営者に要求できるのでしょうか? 損を出さないまでも、従業員への配分を厚くしてそこまで利益を出さなくても良い、という意味で、「内部留保活用」という言葉を使っている人もいるようですが、資本コストに見合う利益を生めない会社は、上場を維持することはできないのです。 価値創造のプロフェッショナルである企業経営者に対し、価値を毀損しても従業員への配分を厚くしろと要求するのは間違っています。 どうしてもそれをしたいなら、法人税率を引き上げるしかありません。増税によって企業から富を吸い上げ再配分すればよいのです。しかしそんなことをすれば、多くの企業は日本から出て行ってしまうでしょう。そのとき日本人の雇用はいったい誰が守るのでしょう。 企業と従業員は対立するものではありません。価値創造のために共存するものです。逆に価値創造が出来なくなった企業は、市場から退出するしかありません。時代に合わなくなったスキルしか持ち合わせていない従業員も同様です。しかし死ぬわけではありません。再生するのです。どんなに失敗してもやりなおす、それが次のイノベーションを生んで行くのです。 政治が今行うべきことは、死に行く企業や死に行くスキルを生きながらえさせることではありません。今新たに生まれようとしているものを支援することです。 そういう意味では、今日の日経新聞3面、景気討論会記事中での深尾光洋氏(日本経済研究センター理事長)の発言、「昨年半ばから今年末までにGDPは3%ぐらい落ち込む。そうすると職がなくなる人が200万人規模で出る。ムダな公共投資より職業訓練をすべきだ。一人200万円使っても百万人で2兆円で済む。」は的を射ていると思います。 ところが日経新聞の39面を見ると、東京都が昨年秋に募集した職業訓練コースは、定員の2.6倍と狭き門であったと報じています。 私は、給食配送の仕事をしながら、会計士の試験勉強をしていた時期があります。配送先は、幼稚園、中学校、職業訓練校でしたが、職業訓練校の学生がもの凄く真剣に勉強をしていたのをとても印象深く覚えています。 今カネを使うべきはここだと私は思います。 【リンク】 稲盛和夫の実学―経営と会計
by yasukiyoshi
| 2009-01-14 10:51
| コーポレートガバナンス
|
アバウト
日々のニュースをCFOはどう読むべきか。CFOに役立つニュースをピックアップし、アカデミック&実務の視点から、そのニュースの本質をわかりやすく「解きほぐし」ます。 by yasukiyoshi ■このブログについて ●「CFOニュース」を始めた理由 ●このブログへのコメントについて ■マーケット情報 2月19日の東京市場 ●日経平均株価 7557.65円(前日比+23.21円) ●株価収益率(PER) 日経225種 前期基準8.70倍(予想68.87倍) ●円/ドル 93.56円~93.58円(前日比-0.98円) ●円/ユーロ 117.81円~117.85円(前日比-1.06円) ●長期金利(10年国債利回り) 1.260%(前日比+0.005%) 2月20日の米国市場 ●NYダウ平均 7,465.95ドル(前日比-89.68ドル) ●ナスダック指数 1,442.82ドル(前日比-25.15ドル) にほんブログ村ランキングに参加しています。 新規公開株情報サイト IPO 2.0 カテゴリ
買収防衛策 配当政策 自社株取得 最適資本構成 資本コスト 内部統制 CFO人事 米国 決算発表 M&A 税制 為替 原価計算 不動産 コーポレートガバナンス TOB 資金調達 MBO 会計 IPO コラム 純粋持株会社 種類株式 経営計画・予算編成 業績評価 バリュエーション 法務 タグ
M&A(114)
資金調達(65) 会計(54) コーポレートガバナンス(42) 税制(40) 買収防衛策(30) IPO(30) 為替(25) TOB(21) 資本政策詳解(19) スティール・パートナーズ(17) 金利(17) 自社株取得(15) 最適資本構成(12) 種類株式(12) ブルドック・スティール(11) 配当政策(11) MBO(8) キリン・協和発酵(7) 資本コスト(7) 検索
以前の記事
2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 最新のトラックバック
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||