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2009年 01月 17日

三菱商事のリスク管理手法―MCVA

リスク管理が威力発揮 真価問われる投資会社化
リスク管理で威力を発揮しているのが、2002年に導入したMCVAという独自指標。
事業ごとの収益から想定最大損失(実質リスク)に株主資本コストを乗じた数値を引いた後の損益を示す。赤字が続けば原則、その事業からの撤退を決める。
この指標でみた赤字額合計は2002年3月期で766億円と同年度の純利益を上回っていた。それが退出ルールの明確化で前期は一気に187億円に減少。これに伴い不良資産関連の償却は2005年3月期の943億円をピークに、前期は1億円強に縮小した。

(日本経済新聞2009年1月17日15面 会社研究)
【CFOならこう読む】
三菱商事のMCVA(Mitsubishi Corporation Value added)は次のように算定されます。

MCVA=事業収益-(最大想定損失×資本コスト)
但し、
事業収益= 税後純利益-(1-限界税率)×(有価証券売却損益+上場有価証券評価損)
MCVAはその名称からもわかるように、株主付加価値(EVA、SVA)を三菱商事に合うようにカスタマイズしたものです。

EVAは、
一般的に、税引後営業利益-資本コスト
により算出されますが、投資会社である三菱商事の場合、有価証券の売却という形で投資の回収が行われるので、税引後営業利益に基づき付加価値を把握することが適当ではなく、金融収支、事業収支を加味しカスタマイズされました。

最大想定損失は、実質リスクと定義されます。

実質リスクとは、統計的に計測される損失発生額の「期待値」(EL)と統計的に計測される損失発生額の「変動幅」(UL)の合計から分散投資効果を差し引いて計算されます。EVAは投下資本に基づき資本コストを計算しますが、MCVAはリスク調整後資本コストを計算するのです。

基本的な考え方は、外資系の金融機関が90年代から導入している手法によっています。例えばチェース・マンハッタンが同様のリスク管理手法をを導入していることが、「戦略的リスクマネジメント」(T・L・バートン/M・G・シェンカー/P・L・ウォーカー 東洋経済)に紹介されています。

三菱商事は、MCVAにより次のようなリスクマネジメントが可能になったと説明しています。
・異なる種類の取引・資産に係わるリスクを計量し会社としてのリスク総量やリスク構造を把握する
・営業組織をビジネスモデルや取扱商品毎に再編し、個々の組織単位で保有するリスク量と収益のバランスを経営管理指標とする
・リスク総量と自己資本(体力)を比較しながら、追加リスク総量を管理し、且つ追加リスクの配分(資源配分)を行う
なお、本文中のMCVAの説明は、京都大学経済学部大学院経済研究科目平成1 7 年度前期「資産運用論」資料、「三菱商事におけるビジネスポートフォリオマネジメント~価値創造経営とリスクマネジメント~」(経営企画部 北村康一)によっています。

【リンク】
2005年7月5日「三菱商事におけるビジネスポートフォリオマネジメント~価値創造経営とリスクマネジメント~」三菱商事株式会社 経営企画部
http://www.kier.kyoto-u.ac.jp/fe-nomura/katou/05.07.05.pdf


by yasukiyoshi | 2009-01-17 11:30 | 業績評価


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