吉永康樹の CFOのための読みほぐしニュース

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2008年 11月 18日

キリンHD 豪コカコーラ(CCA)買収

キリンHD、豪コカ・コーラに買収提案 4880億円投入
キリンホールディングス(HD)は17日、豪清涼飲料大手コカ・コーラ・アマティル(CCA)に買収提案したと発表した。傘下のオーストラリアのビール大手ライオンネイサンを通じた買収総額は80億豪ドル(約4880億円)で、国内食品会社による海外企業の買収では過去最大。少子高齢化などを背景に国内市場が縮小するのに対応し、海外での営業基盤を一気に拡大する。
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2F1700O%2017112008&g=S1&d=20081117
【CFOならこう読む】
本件の概要は次の通りです。
・ LN社が提示したCCA社買収金額は、総額約80億豪ドル(約4,880億円)。

・ CCA社株主に対する対価の支払いは、現金、LN社株式、現金とLN社株式の組み合わせのいずれか選択可能。

・ LN社は、CCA社株主の受取対価として、約45億豪ドル(約2,745億円)の現金およびLN社株式約346百万株を提示。

・ 買収対価のうち現金部分の調達は以下を予定:

LN社の株主総会における承認に基づく、KH社を引受先とする総額37.6億豪ドル(約2,294億円)の第三者割当増資により、大部分の現金を調達予定。この取引によりKHはLN社の普通株327百万株を取得予定。一部についてはLN社の負債による調達を予定。

・ 本件は、LN社およびCCA社の株主総会における承認、豪州およびニュージーランドの公正取引委員会、ならびに、外国投資審査委員会等の審査を含む規制当局の承認を必要とする。

・ なお、本件はLN社とCCA社間での統合であり、KH社の他事業会社は含まれない。1豪ドル=61円(2008年11月13日現在)
買収対価としてCCA株主は、現金、ライオンネイサン株、もしくは両方の組み合わせのいずれかを選択できるという方式はとても良いと思います。

M&Aでは、必ずしも株主の望む通りの結果にならない可能性があることが、「TOBによる敵対的買収の不可能性」として1980年にサンフォード・グロスマンとオリバー・ハートにより指摘されています。
この理論によると、多くの株主が次のように考えます。
「買収者は被買収企業の将来性について自分たちの知らない良い情報を持っているに違いない。買収者がマジョリティを握ることで株価は買収価格より上がるはず。ならばそのまま持っていよう。」
多くの個人株主がこのように考えるなら、このM&Aは不成立に終わります。

被買収者の株主が対価を株で受け取るか、現金で受け取るか選択できれば、「TOBによる敵対的買収の不可能性」の問題は解消されます。

ただし、国内法ではこのようなスキームが予定されておらず、実行は困難であると思われます。

【リンク】
2008年11月17日「ライオンネイサン社とコカコーラ アマティル社における全株式取得に向けた交渉について」キリンホールディングス
http://www.kirinholdings.co.jp/news/2008/1117_01.html


# by yasukiyoshi | 2008-11-18 11:23 | M&A
2008年 11月 17日

株主配分、「利回り」により決定

イベント制作大手のテー・オー・ダブリューは株主配分に「利回り」の考え方を採り入れる。年間配当額を株価で割った配当利回り4.5%に相当する配当金と、連結ベース配当性向40%になる配当金比べて、高いほうで支払うという内容だ。
(日経ヴェリタス 2008年11月16日 14面)
【CFOならこう読む】
以下TOWのプレスリリースからの抜粋です。
「来期(平成22 年6月期)より利益配分の指標として、連結ベースの配当性向および株価配当利回りを基本といたします。
具体的には、来期(平成22 年6月期)の連結業績予想の当期純利益に対して、配当性向40%で算出された一株当たりの予想配当金と、本決算発表日(平成21 年8月6日)の前日の終値に株価配当利回り4.5%を乗じて算出された一株当たりの配当金のいずれか高い方を最低配当金として配当金を決定することとし、来期以降も同様といたしたいと存じます。なお、連結配当性向40%は下限目標といたしますが、株価配当利回りにつきましては、市場金利等の動向を勘案して決定いたします。
また、内部留保の確保という従来からの基本方針に基づき、株価の急騰局面においては、連結配当性向換算で100%を上限として配当額を決定したいと存じます。」
TOWは、主に資金源泉を内部留保に求めており、投資も概ね営業キャッシュフローの範囲に抑えられています。将来の成長よりも株主還元を重視していると言えます。

配当利回りを東証上場平均を約2%上回る水準に設定することで、「長期に保有してくれる株主づくりにつなげたい」と川村社長は説明しています。

14日終値は524円。利回り4.5%から配当金は23.58円と計算されます。今期予想配当は32円なので、支払配当金は32円となり、このとき配当利回りは6.1%となります(但し、新しい配当政策は、2010年6月期から導入されることに留意してください)。

つまり、この配当政策は、4.5%の配当利回りを最低保証する方式であると言うことができます。

【リンク
平成20年11月10日「配当方針に関するお知らせ」株式会社テー・オー・ダブリュー
http://www.tow.co.jp/ir/pdf/release/20081110_1.pdf


# by yasukiyoshi | 2008-11-17 08:53 | 配当政策
2008年 11月 15日

ドルが基軸通貨でなくなることの意味

「米ドル、もはや唯一の基軸通貨ではない」 仏大統領
【パリ支局】AFP通信によると、フランスのサルコジ大統領は13日、「米ドルはもはや唯一の基軸通貨ではない」と語った。14日にワシントンで開幕する緊急首脳会合(金融サミット)でも同様の主張を展開する見込みだ。
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20081114AT2M1401614112008.html
【CFOならこう読む】
サルコジはユーロこそが次の基軸通貨だとでも言いたいのでしょうか?
ならば、それは間違いだと教えてあげなければなりません。
-下手をすると、日本がもっているドルも紙切れになるかもしれない。
岩井 このゲームがどうなるかが、ここ十年のポイントでしょう。理想的に言えば、世界中央銀行ができるしかないんだけれど、これはたいへんに難しい。ヨーロッパのなかでさえ、ユーロ中央銀行でだれが主導権をもつか、そしてユーロ中央銀行と各国の経済政策に関する主権との関係がほとんど解けない大問題になっているわけですから。だから、ここしばらくは二面作戦でいくよりほかないと思います。
 ひとつは、書生的な言い方ですが、たとえいくら困難であろうとも、世界中央銀行への足がかりとなるような国際機関や国際制度を、少しずつ地道につくりあげていくことです。もうひとつは、ひどくコンサバティブな言い方ですが、ほんとうの世界通貨ができるまで、なんとかドル基軸通貨体制をもたせていくこと。そのためには、脅しとかいろんなかたちで、アメリカに基軸通貨国としての責任を忘れないようにしなければならない。ぼくは、ユーロの登場は、そういう意味での脅しであるかぎりは、非常に意味があると思う。だが、第二の基軸通貨としてドルの簒奪をねらっているのだとしたら、それはものすごく危険です。基軸通貨とはひとつしかないことに意味があるのであり、複数の基軸通貨の共存などというのは、これだけ世界経済が一体化した現在においては、ありえない。脅しが行きすぎると、元も子もなくなる。

ードルが揺らぐと、これはほんとうに世界危機になる。そのなかで日本がどうなる
か。
岩井
 心中でしょう。ユーロのほうは大丈夫だと思っているだろうけれど、ユーロがもっているユーロダラーというのは膨大です。ドル危機が本格化したら、ユーロだって危機に陥る。ユーロはある程度は穏便にいくように振る舞うしかない。」
(「資本主義から市民主義へ」 岩井克人 新書館)


【リンク】
 なし

# by yasukiyoshi | 2008-11-15 00:53 | 為替
2008年 11月 14日

中小企業向けの融資減少、鮮明

9月末3.2%減、3年半ぶり大幅
銀行の中小企業向け貸し出しの落ち込みが鮮明になってきた。日銀が13日まとめた国内銀行ベースの9月末の貸出残高は179兆円となり、前年同月末より3.2%減った。減少額は3年半ぶりの大きさ。米金融危機をきっかけに世界景気の先行きへの懸念が強まり、銀行が融資に一段と慎重になっている。中小企業の間では政府系金融機関から借りる動きが広がる一方、政府の追加経済対策の早期発動を求める声も強まってきた。
(日本経済新聞 2008年11月14日 3面)
【CFOならこう読む】
「中小向け融資は、米国の住宅ローン問題を発端に世界の金融市場が混乱し始めた昨夏以降、13ヶ月連続で前年同月を下回っている。8月末までは1%前後の減少額にとどまっていたが、9月末は大幅に落ち込んだ。13日に9月中間決算を発表したみずほフィナンシャルグループは傘下の3銀行合算で9月末残高が6.2%も減った。」
(前掲紙)
本来、金融機関が貸し渋りに向かわざるをえなくなるようなBIS規制の仕組みに問題があります。やみくもにリスクアセットを絞る方向ではなく、資本増強に向かわせる、そういう仕組みに変える必要があると、私は思います。

そうは言っても、貸し渋りの影響から、現実に年を越せない中小企業が数多く存在します。私の感覚では、10月末に10割の信用保証制度が設けられてから、事態は好転に向かっているように思いますが、それでも最悪の状況は脱したという程度の話です。まずは、信用保証枠を現在の6兆円から20兆円に増やし、利用可能業種も545から618に拡大するという追加経済対策を一刻も早く実行してもらいたいものです。

【リンク】
 なし

# by yasukiyoshi | 2008-11-14 09:03 | 資金調達
2008年 11月 13日

資本政策詳解-オーウイル

【CFOならこう読む】
オーウイルの株式上場の概要は次の通りです。

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オーウイルは、食品原料の国内販売、輸出入を手掛ける独立系専門商社です。伊藤園との関係が深く、2008年3月期における伊藤園に対する売上高は33億円あり、オーウイルの売上高の15%を占めています。また第2位の大株主であるグリーンコアという会社は、伊藤園の筆頭株主でもあります。

公募価額450円、2009年3月期見込みEPSが82.54円なのでPER5.5倍という水準での株式公開となっています。

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オーウイルの主な資本政策は (表2)の通りです。

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※クリックすると拡大表示します。

2006年2月と11月に第三者割当増資を行っており、2006年11月の増資単価100,000円は簿価純資産によっているとの開示があります。2006年3月期の1株当たり純資産は91,528円、2007年3月期は100,526円なので、この100,000円という増資単価は妥当であると言えますが、2006年2月期の70,000円はどのように決めたのか疑問が残ります。

(表3)はオーウイルの株主構成です。

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小口社長とグリーンコア合わせて過半数を確保する資本政策になっています。この点からも伊藤園との関係の深さが伺われます。

平成20年8月末時点で従業員数60名、従業員持株会を設立しており、上場直前時点で3%の持分を有しています。ストックオプションは発行していません。

公開株数115万株のうち、売出株数が100万株を占めることからわかるように、上場の主たる目的は資金調達にありません。開示対象の過去5期間全てにおいて配当があることからも将来の成長に向けての投資よりも社長やグリーンコアへの利益還元を重視していることがわかります。それでは何のための上場でしょうか? 創業者利得を確保するためか? 事業承継のためか? いずれにしても大きな成長は期待できないように思えます。さらに言うと、主要取引先が大株主であるというガバナンス体制にも不安を感じます。

【リンク】
オーウィル株式会社 IR情報
http://www.owill.co.jp/ir/library.html


# by yasukiyoshi | 2008-11-13 12:06